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第11話
……やっぱり無理してでも頑張んないと。
唇をぎゅっと噛んで、中に入ってる指をゆっくりと折り曲げた。
「──むうっ、むう~……んん~~!」
枕に口をつけてるとほとんど空気が吸えない。
一度深呼吸してから、指をぐりぐりしてさらに中を拡げた。馴染んできてるっぽいけど、まだ挿入には堪えられそうにない。
A.Sさんは俺の登録初日に届いた、100通以上の申し込みのうちの一人だ。
会社から帰宅した俺は寝ずにノートパソコンの画面と向き合って、応募者を一人ずつ確認していた。
プロフィール写真のものすごく端正な顔立ちに、心を揺さぶられた。しかも年齢32才、年収3千万円。それまで見ていた応募者のなかでダントツで若くて・ハンサムで・高収入だ。
それまでの眠気が吹っ飛んだのを感じながら、いそいそとプロフィール詳細を開いた。
東大法学部卒。司法試験合格・弁護士資格取得。国家公務員として官庁にて勤務。昨年退職し、親族が代表を務める法律事務所の後継者として専務取締役に就任。数年内に事業を引き継ぎ、代表となる予定。
他にも留学経験あり、語学堪能、剣道初段など、完全無欠な経歴が続いていた。身元確認がきっちりしているこの結婚相談所じゃなかったら、信じられなかったかも。
だけど、こんな超・ハイスペックが、一介のサラリーマンの俺なんかに声をかけてくるなんて、申し込む相手を間違えてるんじゃないのか。唯一の共通点は俺も法学部卒ってことだけど、別に俺はこの人や誘みたいに司法試験に合格したわけでもないし。
理想のタイプは『小柄で可愛い子』。
たしかに俺に当てはまる。が、他にもたくさんそう。まあ、俺なんか、たくさん声をかけてるうちの一人だろう。
ともかく最後までプロフィールを読み終わり、俺はA.Sさんを”フレンドに登録”した。
”フレンド”とは、エトワールのシステムで、交際の申し込みをされたらプロフィールを確認して、好みや条件に合ったらフレンド登録、反対に合わなかったらそのまま無視することになっている。
フレンドになるとメッセージの交換が回数無制限になる。やっぱり合わないと思えばあとからブロックもできるし、まずは気楽に登録してくださいと鶴矢さんに説明を受け、すでに二十人ほどフレンド登録してる。
俺がフレンドに登録したことは、リアルタイムでA.Sさんにも通知される。
『フレンド登録ありがとうございます!』
即座にメッセージが返ってきた。普通は寝てるはずの午前三時だけど、向こうも起きてアプリを見ていたらしい。
『あなたを一目みて生まれて初めて恋に落ちました。もう貴方以外考えられません。どうか僕と結婚してください!!』
なんだ残念。この人、誘と同じで、スペック高いのに馬鹿なタイプだ。だって、俺の平凡な顔面に一目惚れもない。きっと相手なんか見てもなくて、手当たり次第に送ってるんだろう。32歳で初恋っていう設定も痛い。
『あなたは僕に舞い降りた天使です!』
触らぬ神に祟りなし。眠気もあって、俺はそっと画面を閉じた。
朝に起きて画面を見ると、彼からの未読メッセージが三十件以上。俺のことが恋しくて眠れなかったそうだ。
『もしあなたが、ふつつかな僕を伴侶に選んでくれたら、一生をかけてあなたに尽くします』
ハイスペックでイケメンの彼が、俺のために身を投げ出すほど溺愛するなんてありえる……? だが、夜通し届いたプロポーズには誠意が溢れていた。
──運命の恋かもしれない。白雪姫もシンデレラも、王子さまはプリンセスを一目見るなりプロポーズするもんね!?
『俺なんかで良いなら是非よろしくお願いします』
十時間ぶりにそう返事を返すと、A.Sさんはすぐにでも俺と会いたいと、一流ホテルのラウンジを指定した。お茶をする約束だけど、この勢いだと部屋も取っているかもしれない。やっと会えた運命の人とそこで一つになるのかも……。
「ア……ン……う、ぁうっ、」
妄想に耽るうち、前を扱く手が早まっていった。まずいと思った時にはぶわっと精液が上がっていて、もはや止められない。
「あっ、イクっ!! アッ!!」
身悶えながら手に取ったティッシュが空という……。ああもう我慢できない、このまま出しちゃえっ!!
シーツはローションですでにベタベタだったしこの時俺の頭の中は射精することで一杯で、手で覆いさえせずに先端から白いものを盛大に吹き出した。
そのまま寝てしまったらしい。翌朝、股間を晒した姿で目覚めた俺は、ベッドの惨状に頭を抱えることになった。
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