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第40話
久しぶりに来たけど、休みの日の公園って結構いいな。背の高い木の影、広々とした芝生、のんびりと過ごす人たち。ビルと車だらけで今にも誰かとぶつかりそうな外とはまるで空気が違う。犬の散歩やマラソンランナーに混じって中央の噴水広場を目指した。
そこが今、昼間限定でフードエリアになっていて、誘は毎週日曜に、ホットドッグスタンドを出店しているらしい。ふと思いついて、たった一人で屋台から手作りして始めたって、フットワーク軽すぎ。
歩くうちにだんだんと、水が噴き上げる音と明るい音楽が聞こえてきて、噴水広場に出た。想像していたよりずっと大盛況。クレープにケバブ、ロコモコ丼など、お洒落なキッチンカーがずらりと広がっていて、それを買い求めるお客さんでいっぱいで、まるでお祭りみたいだ。
さて、誘のホットドッグ屋は……。ぐるりと見渡して、フードエリアの一番隅っこに見つけた。立派なキッチンカーが所せましと並ぶ広場で、赤と白の2つのパラソルと手押しの四輪カートが、ぽつんと立っている。
貧相だな。と昨夜、写真を見せてもらったときと感想は変わらないが、ちゃんと売れてるじゃん。
赤いエプロン姿の誘の前で、今は女子五人が出来上がりを待っていた。調理中の誘にしきりに話しかけている。誘が紙に包んだホットドッグを手渡す。終わったかと思いきや、女子たちはホットドッグを手に、誘を真ん中に入れたグループショットを撮ってから出ていった。すかさず違う女子グループが並ぶ。向かい合った誘に「カッコいい!」の黄色い声を上げた。
「ありがとー」
誘は笑顔を向け、全員の注文をとった。マスタード・ケチャップの好みの量、抜いてほしい具材、追加するトッピング、ドリンクはコーラかレモンティー。メモも取らずにフンフンと聞いている。
調理を始めた誘に、この女子たちも身をのり出すようにして話しかけだした。
「誘さんですよねっ? インスタで見てきました!」
「ふーん、そうなの? ありがとー」
誘はピンと来ていないようだが、そのインスタ、多分俺も見た。このフードエリアの公式のアカウントで、出店店舗について、店の外観やおすすめメニュー、営業日などが紹介されている。そこに登場してる誘は、他の誰よりも圧倒的に映りが良かった。
「誘さんって何歳ですか?」
「24」
「彼女いますか?」
「いないよ」
「好みのタイプは?」
「う~ん……。好きになるのが先だから、全部好き」
その後、彼女たちは誘に手紙を渡したり、握手を求めたりしていた。快く応じる誘に「キャー!」って。アイドルかよ。誘だって、愛想良くし過ぎ。大勢にモテて嬉しいか。
あんなんだから、大学時代、誘の周りにはいつも女子たちが群がり、俺は彼女たちから敵視されていた。俺は何もしてない。誘の方から寄ってきてるのに、俺が取ったことになって、散々嫌み言われて、今思い出してもムカつく。
店の前が空いた。俺に気づいていたらしい誘が手を振ってくる。ゆっくりと足を向け、木漏れ日が照らすパラソルの下で誘と顔を合わせた。
「おまたせしました、いらっしゃいませ!」
そんな営業スマイルに俺は決してだまされないぞ!!
誘は俺の顔をじっと見て、保冷剤を渡してきた。
「透くん、顔真っ赤だよ。大丈夫か?」
「うん、暑くてさ……」
汗を拭くふりで顔を擦って、泣き顔をごまかす。上手く行ったようだ。
「なら先にドリンク出すね」
たっぷりの氷とレモンティーを注いだカップを渡されて、生き返った。イッキ飲みしても足りず、お代わりも貰う。涙と汗で水分不足だったかも。
「これあげる」
誘が紙切れを渡してきた。
チラシじゃない。誘のオリジナル迷路だ。ただし、子供向けなのか、可愛らしいキリン模様で難易度も圧倒的に低い。
「解いて次回持ってくると、次の迷路が貰えるよ。五問正解するとトッピング一つ無料」
誘のファンや、マラソンランナー、ドッグランの利用者など、意外と常連は多いようで、このサービスは好評のようだ。ただし、枚数が増えるにつれ難易度がどんどん高くなるので、五問目の正解者は未だいないらしい。誘はフフンと悪い顔をしていた。
「さてと」誘が、俺と誘の分のホットドッグ調理に取りかかる。
手元を覗き込む俺に、手順を教えてくれた。
鉄板の上で、太めのソーセージをトングでころころ転がして、じっくり焼く。
俺は黙って聞いている。油の弾ける音と、いい匂いがたまらない。
パンパンに膨らんだところで、トーストからパンを持ってくる。真ん中の切り込みに、たっぷりの千切りキャベツ、ピクルスを挟み、上から熱々のソーセージをぐっと押し込む。トッピングに俺はチーズ、誘はサルサソース。最後にケチャップ、マスタードをかけて、食べやすいように紙に包む。
誘は出来上がったホットドッグとドリンク二つずつをトレイにのせて、俺を店の後ろに案内した。椅子代わりのクーラーボックスに並んで腰掛けて、いざ!
「いただきますっ」
「召し上がれ~」
包み紙をめくり、パンからはみ出た丸々としたソーセージの頭めがけて、勢いよくかぶりついた。
皮がパリッと破れ、ジュワっと肉汁が口の中いっぱいに放たれた。香ばしいパンとチーズ、ケチャップ、マスタードの最高のハーモニー。さらにキャベツの千切りとピクルスのバランスの良さが、俺を急かして食べるのを止めさせない。そしてコーラとも相性抜群だ。
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