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第4話
ホットコーヒーとコーラの入ったグラスをテーブルに置いてベッドに腰掛ける。狭いワンルームにソファなんていう贅沢品は置けない。ミカエルはベッドの足元にある座布団に座って、難しい顔をしたままコーラを一口飲んだ。
「で、具体的には何をする気なん」
そのセリフを待っていましたというばかりにミカエルはグラスを置くと勝気に笑んだ。
「もう復讐は始まっているよ」
「……え?」
僕は驚いて声をあげた。ミカエルは僕が起きてからこの部屋から一歩も出ていない。そんな暇どこにあったというのだろうか。
「手始めに『表紙』をR18に変えたよ。いかがわしい性表現がないにも関わらずだ!」
「な……なんやて……!?」
(いや、なんか迫力に負けて驚いてもうたけど、何のこと言うてるんや……はっ、まさか……)
『表紙』、R18、その言葉は確かにとあるものを連想をさせられた。
それは上の方にある『天使と社畜と夏野菜』という文字を押すと左側に出てくる画像のような気がする。
「もしかして……、その復讐、『画面の向こう側』に仕掛けてたりせえへん?」
アニメで突然主人公とかが「テレビの前の良い子は真似しないでね!」などと言い、強制的に現実に引き戻され、興ざめさせられるアレか。アレをここでもするというのか。
僕の言葉を肯定するようにミカエルはにやりと笑った。
「これでエロを求めてやってくる彼女達をさぞかしがっかりさせることができるだろう。表紙にR18しか書いてなかったら、エロいよね、エロいに決まってるよね。なのに、どこまで読み進めても天使と童貞が喋ってるだけなんだから」
「童貞は今関係ないやろ」
「その絶望は冷蔵庫にあるはずのプリンがないのに匹敵するだろう。万にひとつ、微かな希望を持ってここまで読み進めた人がいたら、教えてあげよう。この先にエロはない。繰り返す。この先にエロはない!」
(ネタバレやと……。こいつ、なんと残忍な手口を……)
怒りと恐ろしさに体が震える。
「ジブン……、ちょっとメタすぎひんか」
「言ったじゃないか、メッタメタのギッタギッタにしてやると!」
「メッタメタのメタってそういう意味なん!?」
僕は驚きを隠せずに、腰を浮かせて叫んだ。
いくらプリンがなかったことに絶望したといえど、表紙詐欺なんていくらなんでもやりすぎだ。僕はコスプレを売りにしているAVにもかかわらず、女優が開始五分で全裸になってしまった時の絶望を思い出して怒りに震えた。
「……ミカエル、これ以上、無関係な人を悲しませるのはやめろ」
「無関係なんかじゃないよ。君の姉は腐女子だ。腐女子の責任は腐女子に負ってもらう」
天使は『腐女子』という聞きなれない単語を吐いて、美しく微笑んだ。
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