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第5話

 ミカエルが同類と言った意味をなんとなく理解した。  しかし、残念ながら僕はサブカルの世界にあまり明るくない。 「腐女子ってオタクの女性やろ」  リュック背負ったオタクの女性版という程度の知識しかなかったが、姉のイメージからは程遠い。 「君は色々と勘違いしているね」  ミカエルは手のひらを天に向けた。すると、何もないところから、バラバラとノートのようなものが降ってきて、僕の足元に散らばる。 「読むといいよ」  言われた通り、そのノートのような漫画を手に取る。表紙は見たことあるジャ○プ漫画のキャラクターが描かれていた。まるで本物みたいにそっくりでちょっと驚いた。そして適当なページを開いて、さらに驚愕した。男同士が全裸の汗だくで繋がっていた。反射的に両手で漫画を閉じる。 「な、な、なんやこれ、ホモ漫画やんけ! めっちゃエロいし」 「そう、男同士の恋愛が好きな女性。それこそが腐女子なんだよ」 (つまりそれって……、姉貴もこういうの好きってことやんな)  人の趣味に口を出す気はないが、正直、ドン引きである。  そんな気持ちが顔が出てしまったせいか、ミカエルが嬉しそうに笑った。 「君って本当、いい顔するねぇ」  この悪魔のような天使は嬉々としてどこからか取り出したデジカメで僕を撮って楽しんでいる。  彼は本当に僕の神経を逆なでする天才だ。  もはや突っ込むのも億劫になって、手元にあった同人誌をミカエルに返した。 「あれ、読まないの?」 「いや、深く読んだら具合悪くなりそうや」  床にばらまかれた漫画たちから目をそらす。ベッドの傍に座って上機嫌にデジカメのデータをチェックするミカエルを見下ろした。この顔を見ると、機嫌はもう直っただろう。 「ミカエル。もう気が済んだやろ。表紙を元に戻してくれ」 「それは出来ない」 「はっ?」 「一度変えた表紙を元に戻すことは出来ないんだ。残念だけど、この作品は永遠にエロを求める腐女子を騙し続けるのさ!」 「なんやと……!」  ただでさえ鬼畜天使なんていう詐欺みたいなタイトルを付けているというのに、なんという初見殺しだ。  このまま犠牲者が増えていくのを指を咥えて見るしかないのか。  いや、違う。僕には、僕にしか出来ないことがやないか。  ――僕なら変えられる。この先の展開を……! (待ってろよ、なにがなんでもエロを入れたるからなッ!)  僕はエロという二文字を心に誓うと、情熱の炎を胸を燃やした。 「ミカエル。さっきの同人誌、やっぱり読ませてくれ」 「ふふッ、やっぱり気になった?」  ミカエルはそんな僕の情熱に気づくはずもなく、あっさりと僕に数冊の同人誌を手渡した。  僕は意を決して、それに目を通す。男同士のエロ漫画に抵抗はあるが、やるからにはセオリーを抑えなくては始まらない。  まあ、簡単なことだ。この十八禁の同人誌と同じ展開にすれば、きっと表紙を見て期待した人たちも満足するに違いない。 (えーと、これはストーカー化したキャラが嫌がる少年を無理矢理……、いや、違うのを読もう。お、これなんかラブラブカップルっぽいやんか。えーと、そんなカップルに嫉妬した当て馬が暴走して受けを寝取ってメス堕ちエンド……。こっちは闇落ちしたキャラが催眠かかってモブとやりまくっとる……、これは罪のない少年たちが犯罪者の餌食に……) 「なんで……なんで、陵辱系しかないねん! 偏りすぎやろ!」  しかも全部同じ作者だ。ミカエルはこの作者のファンなのか。性癖が歪みすぎて、気の毒にすらなる。  しかし、いくらなんでも僕は陵辱されるつもりなんてない。この漫画なんて、行きずりの男に密室に監禁された挙句、複数の変態に囲まれてセックスするハメに……って僕コレ、この間やったわ!※『鬼畜天使と社畜リーマン』 (……なんてこった……僕は知らん間に陵辱されとったんか……)  今になって明かされた事実に愕然とした。 「人の選んだ本に文句を言わないで欲しいね」 「うるさい! ラブラブセックスを読ませろ!」  感極まって、僕は座っていたベッドに手の平を叩きつけた。  この男とはAVの趣味は合わなさそうだ。

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