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第9話

「さ、お仕置きを始めようか」 「何する気なん……?」  もはや諦めの境地で、僕は尋ねた。  ミカエルは手のひらを上に向けると、何もない宙からバラバラと何かが降ってきた。相変わらず、魔法のような術を使ってくる。床に転がったのは、色とりどりの野菜であった。 「これが何か分かる……?」 「野菜……」 「なんの野菜だと思う?」  意味深に尋ねられて、野菜を見る。うり、きゅうり、オクラ、なす、とうもろこし、ゴーヤ。これらの共通点を思案すると、ひとつの可能性にたどり着いた。 ――ま、まさか……!  これは、さすがの僕もAVやエロ漫画で見たことはないが、噂で聞いたことがある。野菜を男性器に見立ててあらぬところに挿入するという。そう、異物挿入モノというジャンルがこの世にはあると……。  そういう責め方をされると思わず、僕は頰を赤らめた。 「ぼ……棒状のやさ……」 「そう、夏野菜さ!」 「夏野菜……」  再び僕の言葉を遮って、爽やかな言葉を口にする。  ここまでくると別の意味である疑惑を感じた。しかし、ミカエルは楽しげに落ちたオクラを拾い上げるとわざとらしく舌で舐めあげた。 「さ、これを、どうすると思う?」  天使のあからさまなセリフに、疑惑が確信に変わった。 「……お前、わざとやろ」 「なにが?」 「僕がエロい方向に持っていこうとすると、わざとフラグへし折って楽しんでるやろ」 「さぁ、なんのことかな?」  この性悪天使は、僕がエロい展開に持っていこうとしていることなどお見通しなのだ。その証拠に目の奥が楽しそうにキラキラと輝いている。 (……くそ、このままでは、ホンマに遊ばれて終わりや)  この絶望的な状況をどう切り返すかと考えをあぐねいていると、ミカエルの方から思わぬ事を言ってきた。 「まあ、君にしては、頑張ったほうじゃないかな」 「え?」 「まあ、お仕置きは後でするにして、少しサービスしてあげようかな」  そう言うやいなや、ミカエルが僕のボトムに手を伸ばすと、下着ごと剥ぎ取ってしまった。元々油でベトベトになっていたとはいえ、突然全裸に剥かれても戸惑いしかない。僕は己のジュニアを隠すように膝を揃えて折りたたんだ。 「ちょっ……、何するねん!」 「何って……、君が待ち望んでいた展開だよ」  ミカエルは僕の服をゴミのように投げ捨てると、全裸の僕の前で仁王立ちになった。彼が翼を広げ、両手を広げるとその背中から金色の光が見える。 (な……、なんや?)  こうして見るとミカエルはやはり天使で、絵画のような美しさである事を思い知らされる。そして、普段より幾分透き通った声で唱えたのだ。 『創造世界の消失(チャンジョー・シギィ・シィジョン)

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