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再会?②

「あれ? もしかして君、今日から来るって噂の転校生かな?」 「……え?」 「あ、そうかも。見かけたことのない顔だもん。一人じゃ心細いだろう?」  突然背後から複数の声が聞こえてきた。その中でも一人の青年の声に、ドクンと大きく渉の心臓が跳ねた。あまりにも勢いよく跳ねたものだから、止まってしまうのではないかと不安になったくらいだ。  恐る恐る振り返った視線の先には、端正な顔つきをした青年が立っている。身長は渉よりずっと高くて、何かスポーツをしているのだろうか? 制服の上からでも逞しい体つきをしていることがわかる。綺麗な一重の瞳は優しく細められ、色素の薄い、さらさらとした髪が春の日差しを受けて絹糸のように輝いていた。 「一緒に行こうか?」  この耳に心地よい低くて甘い声……もう何度も夢の中で聞いた。着ているものこそ違えど、見た目も仁と瓜二つだ。  その胸を締めつけるような懐かしさに、渉は目頭が熱くなるのを感じる。  ――見つけた。  鼓動がトクントクンと速くなっていく。渉は、全身の毛が逆立つような強烈な興奮を感じた。  ――ようやく会えたんだ……。  鼻の奥がつんと熱くなって目の前が涙で滲んだ。 「仁……さん……?」 「え?」 「貴方は仁さんでしょう? 会いたかった、仁さん!」  渉は無我夢中で目の前にいる青年に飛びついた。忘れることなんてない、もう何度も夢に見たのだ。  毎日会いたいと思っていたし、絶対に探し出すと心に誓っていたのだ。でもまさか、こんなにも早く再会できるとは思っていなかった。 「仁さん、会いたかった……!」  全てが懐かしさで胸がいっぱいになる。この逞しい胸板も、温もりも、匂いも……渉は嬉しくて思わず頬をすり寄せた。その瞬間、青年の体がビクンッと強張り、強い力で体を引き離されてしまった。 「あ、あの、多分君は人違いをしていると思うんだ」 「……人、違い……?」 「うん。僕の名前は仁じゃなくて正悟。西野正悟(にしのしょうご)だよ」 「西野、正悟……」 「そう。この学校で生徒会長を務めてる。それから、君が在籍するクラスで学級委員もやってるんだ。よろしくね。君の名前は?」 「え?」 「君の名前が知りたいなって思って」 「あ……俺は桐谷渉」 「よし、桐谷君。これからよろしくね」  目の前でにっこりと微笑むその姿は、どこをどう見ても仁そのものだ。それに抱きついた時に感じた温もりや匂いだって変わっていない。正悟と名乗った青年は、何から何まで仁にそっくりだった。  ――こんなにも仁さんにそっくりなのに、仁さんじゃないなんて……。  渉は強い戸惑いに包まれる。  呆然としている渉の耳に、遠くの方で始業を知らせる鐘の音が聞こえてくる。先程までたくさんいた生徒たちの姿はそこにはなく、すでに教室に行ってしまったのだろう。 「あ、ヤバイ! チャイムが鳴っちゃった。急ごう、桐谷君」  笑顔で手招きする正悟を見ると心がグチャグチャになり、涙が込み上げてきそうになる。仁の声で『宗一郎』と呼んでもらえないことが悲しくて仕方がない。 「あの人は仁さんの生まれ変わりなんだろうか……。それとも、ただ似ているだけなんだろうか……」  何が何だか意味がわからなくて混乱したまま、何も理解できず、それでも正悟の背中を無我夢中で追いかけた。  

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