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再会?④
午前中の授業が終わり、渉は逃げるように教室を後にした。授業そのものは家庭教師から既に習っていた範囲だったものだから特に問題はなかった。
ただ、隣の席にいる正悟が気になって仕方がない。チロチロと横目で正悟を観察してみるのだが、やはり仁と瓜二つなのだ。
授業が退屈なのかシャーペンをクルクル回すほっそりとした指も、触れると柔らかそうな唇も、無造作に組まれた長い足に、眠い時に唇を尖らせる癖まで……。正悟を構成する全てのパーツが仁そのものに思えて仕方がない。
どこか静かな所で朝持たせてもらった弁当を食べようと、良さそうな場所を探して歩く。
まだ半日しか経っていなかったが、正悟がどれだけ皆に好かれているのかを見せつけられてしまったというのも心臓に悪い。
休み時間になると、クラスメイトの男子が彼を取り囲んで何やら盛り上がっている。
人気なのは男子生徒だけにではない。女子生徒も代わる代わる正悟の席を訪れては、楽しそうな時間を過ごしていった。
廊下に出れば、違うクラスの生徒から声をかけられ、なかなかトイレにもたどり着けないようだ。それでも嫌な顔一つせず、皆と楽しそうに話をしている。
きっとこんな風に優しい正悟だから、誰からも好かれるのだろう。何となく話しかけにくい雰囲気に圧倒され、朝の自己紹介以来、渉が声を発することなくあっという間に時間が過ぎていった。
「あ、ここがいいかも……」
フラフラと彷徨った挙句たどり着いた場所は屋上だった。ここは生徒が普段過ごしている教室から遠いせいか、渉以外誰もいないようだ。
それより、四時限目の授業が終わった途端、まるで蜂の子を散らしたように教室から一斉に生徒がいなくなったことに、渉は驚いてしまっていた。
それは特別進学コースの生徒だけではない。他のクラスの生徒達も一斉にある場所へ向かって走り出したのだ。「家の中を走るなんてはしたないことだ」と、耳にタコができるくらい柴崎に言われ続けてきた渉からしてみたら、その光景はとても異様に見えた。
後になって、皆学食の日替わりランチを食べるためだったり、様々な理由で急いで購買に向かっていたのだということを知る。どうやら、昼休みは戦争らしい。
そんな戦争など露ほども知らない渉は一人、屋上で弁当の包みを開いた。
「げっ、なんだよこの量……。一人で食い切れるわけねぇじゃん」
高級そうな風呂敷から出てきたのは、二段に積み重ねられた重箱だった。恐る恐る蓋を開けてみれば、まるで正月の時に食べるおせち料理のように、高級食材が詰め込まれていた。
「こんなに食えねぇよ」
渉がガックリと肩を落とした瞬間、物陰から男女の話し声が聞こえてくる。ヤバイ、先客がいたのか……。そう思い弁当をまとめようとしたが、その声の主が正悟だということに気が付く。なんでこんなところにいるんだろう? 心がザワザワした。
――盗み聞きなんてよくないとわかっているけれど……。
渉は心の中で謝罪をしてから、声がする方へとゆっくり体を向ける。耳をすませば正悟と女子生徒が何やら口論しているようだった。
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