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再会?⑤

   これが痴話喧嘩というものなのだろうか? 聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、渉は息を潜めた。後になって盗み聞きをしていた――なんて正悟が知ったら、失望されるかもしれない。  しかしそれと同時に、胸がズキンと痛みだして、キュッと締め付けられる。なぜなら、正悟とこの女子生徒はきっと特別な関係に違いない……。恋愛に疎い渉でも、それがわかってしまったからだ。 「あのさ、何回かヤッただけで、僕達は付き合ってるわけじゃないよね?」 「なにそれ? 本気で言ってんの? 最低じゃん⁉」 「だって『抱いてくれなきゃ死んでやる』って騒いだのは君でしょう? だから君と寝た。ただそれだけだよ」 「ひどい! ひどいよ、正悟!」 「いい加減にしてほしいのはこっちだよ。君の家とは親同士の交流があるから無下に扱えなかったけど……あまりにもこういうことが続くなら、君のお父様に相談させてもらうよ? それでもいいの?」 「も、もういい‼」  正悟の言葉に顔を真っ青にした女子生徒は、泣きながら屋上を後にした。  急に静まり返った屋上で正悟が前髪を掻き上げながら溜息をつく。何か嫌なことがあったとき、前髪を掻き上げる癖……それも仁と同じだった。 「そっか……西野君は女の子にもモテて、そういうこともするんだ……」  知りたくなかった事実を知ってしまった渉は、全身の力が抜けてしまい肩を落とした。目の前がユラユラと揺れて、視界がぼやけてくる。   自分の世界が広がれば、きっと仁に再会できるかもしれないと思っていた。再会した仁には前世の記憶があって、彼も自分のことを探してくれているに違いない……。そう信じてやまなかった。  それなのに、理想と現実の差はあまりにも大きくて……。渉の心はズタズタに切り裂かれた。 「……ようやく再会できたと思ったのになぁ」  溢れてきそうになった涙を慌てて真新しい制服の袖で拭う。一生懸命、今目の前で起こっている出来事を整理しようと思うのに、さらに頭の中がごちゃごちゃになってしまった。ただ、胸が引き裂かれそうに痛い。 「もう嫌だ……」  そう唇を噛み締めて、頭を両手で掻き毟った瞬間。 「あれ? 桐谷君じゃん。こんなところでどうしたの?」 「わぁッ!? あ、あ、えっと……」  突然頭の上から聞こえてきた声に驚いて顔を上げれば、そこには優しく微笑む正悟がいた。 どうしても渉には正悟が仁に見えてしまう。正悟の笑顔を見る度にときめいてしまうし、胸がギュッと締め付けられる。本当に心臓に悪い。 「これからお昼?」 「あ、うん」 「そっか……」  泣いていたところを見られたくなくて、慌てて涙を拭った。 「ずっとそこにいたのなら、もしかしてさっきの話聞いてた?」 「え?」 「僕と女の子の会話を聞いてたのかなって」 「あ、え、えっと……」 「あ、別に桐谷君のことを盗み聞きしてたのかーとか言って、責めたいわけじゃないよ。逆に不愉快な思いをさせちゃったかなって……申し訳ない気分」  気まずそうにはにかみながら、前髪を掻き上げる正悟。やっぱりそんな仕草は仁と同じで、自然と胸が熱くなった。

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