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再会?⑦

「疲れたな……」  自宅に戻りベッドへ直行する。特にこれといったことをしたわけでもないのに、ひどく疲れてしまった。少し目を閉じるだけで今にも眠ってしまいそうだ。  空っぽになった弁当箱を見て、柴崎が目を見開いていた。それはそうだろう。あんなに重たかった弁当箱が空っぽになっているのだから。柴崎が驚くのも無理はない。 「えっと、クラスメイトと一緒に食べたんだ。ご馳走様でした。美味しかったよ」 「お、お友達と一緒に召し上がったのですか!?」 「別に友達ってわけでもないけど……」 「よかった、よかったですな、坊ちゃん。早速お友達ができて。柴崎は嬉しいです!」  柴崎が懐からハンカチを取り出して目元を押さえている。  渉の帰りを今か今かと待ち侘びていたのは、何も柴崎だけではない。家中の家政婦がまるで英雄が凱旋帰国したかのように出迎えてくれたのだった。  過保護もいいところだと文句を言ってやりたくもなったけど、朝、正門の前で動けなくなってしまった自分を思い出す。あの時、正悟が来てくれなかったら尻尾を巻いて逃げ帰っていたかもしれない。  今思い出すだけでも恥ずかしくなってくる。  今日は本当にめまぐるしい一日だった。世間知らずの渉からしてみたら、知らないことばかりの連続で……目が回るようだった。 ◇◆◇◆ 「なぁ、西野君。エレベーターってどこにあるの? いちいち階段上り下りするのが疲れるんだけど」 「え? 普通学校にはエレベーターなんてついてないよ? あっても生徒は使わせてもらえないんじゃないかな?」 「はぁ? じゃあエスカレーターは?」 「学校にはそんな便利なものないよ。だから頑張って階段を上り下りするしかないんだ」 「マジで!?」  目を見開きながら大声をあげる渉を見て、正悟も一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐにまた笑顔になった。 「じゃあ、あの自動販売機はカードって使えるの?」 「カードって、クレジットカードのこと?」 「そう」 「この学校にある自動販売機は現金しか使えないよ」 「そんなぁ。俺カードしか持ってない」  ガッカリと項垂れる。渉は小さい頃から父親名義のクレジットカードを持たされていて、それを自由に使ってきた。 欲しいものは我慢なんてせずに何でも買ったし、お金に困ったこともない。好き勝手にクレジットカードを使っていた渉は、現金を持ち歩く必要などなかったのだ。 「残念だなぁ。俺、コーラを飲んでみたかったんだ」 「コーラ?」 「そう。炭酸のジュースって体に悪いから飲んじゃ駄目だって、小さい頃から言われてて……。だから、高校に行ったらこっそり飲もうって楽しみにしてたんだ」 「へぇ。君って本当にお坊ちゃんなんだね? コーラも飲んだことないなんて」 「……うるせぇよ。世間知らずな奴だって思ってんだろう?」  渉が唇を尖らせれば、正悟がクスクスと笑っている。その顔がやっぱり仁とそっくりで、胸が苦しくなった。 「お弁当をご馳走になったお礼に、僕がジュースを奢ってあげるよ」 「え!? マジで!?」 「あぁ。放課後一緒に飲もう?」 「うん! 西野君、ありがとう」 「あははは! 正悟でいいよ。僕も渉って呼ばせてもらうし。ジュースくらいでこんなに喜ぶなんて、渉は子供みたいで可愛いね」 「……あ……うん」  思わず正悟から視線を逸らした。彼の笑顔を見ていることが辛く感じられたから。 『宗一郎は子供みたいで可愛いね』  仁は、いつもそう言いながら宗一郎の頬を優しく撫でてくれる。また俺を子供扱いして……とその時は面白くなくて不貞腐れてしまった。そんな不貞腐れた渉を見て、仁は更に「可愛い」と頬をほんのり赤らめるのだ。 『宗一郎は本当に可愛いね。大好きだよ』  正悟を見ていると、時々仁との思い出がふと蘇ることがある。それはとても辛いことだったけど、幸せでもあった。  そして、たまらなく仁が恋しくなった。

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