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再会?⑦
午後の授業が全て終わった放課後、約束通り正悟はコーラを奢ってくれた。それは幼い頃から憧れていた飲み物で、渉はキラキラと目を輝かせる。
恐る恐るプルタブを持ち上げれば、プシュッと一気に炭酸が抜けていく音がした。
「超いい音!」
この音は、幼い頃から渉が夢にまで見た音なのだ。小さな飲み口からは、シュワシュワッと炭酸の細かい泡が飛び出てきて渉の心は更にときめいてしまった。
「飲んでいいの?」
「うん、いいけど……なんかものすごく悪いことを教えている気分になるよ。しかも登校初日に……。渉の家の人に怒られちゃわないかな?」
困ったように笑う正悟のことなど無視して、缶を少しずつ傾けていく。ピリッと痺れるような感覚にはじめはびっくりしたけれど、ピリピリと電流のような痛みが喉を通り抜ける刺激に渉は目を見開いた。
「美味しい……。これ凄く美味しいね!」
「そう? それはよかったね」
まるで自分のことのように嬉しそうに笑う正悟を見て、渉の心臓がトクンと跳ね上がる。どうしても正悟の笑顔は苦手だ。
「ねぇ、僕にも一口ちょうだい?」
「え?」
「一口。飲ませてよ」
「あ、で、でも……」
何と返答したらいいのかがわからず狼狽える渉の手から、ヒョイッと正悟の手が缶を取り上げていく。「いただきます」と嬉しそうに目を細める正悟の唇が、つい先程まで自分が口付けていた場所に触れる。思わず、それをじっと見つめてしまう。まるで、そこだけがスローモーションのようだった。
――あ、これ、間接キスだ。
こんな経験を今までしたことがない渉は、呆然と正悟を見つめた。友達っていうのは、こんなこともするんだ……と、急に意識してしまい恥ずかしくなってくる。
「やっぱりコーラは美味しいね。でも、これ一本はさすがに飲みきれないな」
手の甲で口元を拭う正悟に、視線を奪われてしまった。
今日は初めて体験したことがたくさんあった。
クラスメイトとお弁当を食べたり、ジュースを回し飲みしたり。それは思い描いていた学校生活そのもので、思わず胸がドキドキしてしまう。
『また明日ね』
別れ際に正悟に言われた言葉がくすぐったかった。また明日も正悟に会える……。そう思うと嬉しかったけど、この有耶無耶な状態で一緒にいることは、渉にとって辛いことでもあった。
「でも会いたい……」
渉はクッションを抱き締めたまま目を閉じる。瞼の裏では今日も仁が笑っている。いつもみたいに……。
「やっぱり西野君にそっくりだ。洋服を着ていなかったらわからないかもしれないな」
ふと頭を過った考えに一瞬で頬に熱が籠った。
「お、俺は何を考えてるんだ……! もう何が何だかわかんない……なんなんだよぉ!」
体の芯が疼くような感覚に泣きたくなってきた。今晩は眠れそうもない。
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