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カルガモの親子⑩

「白状するね。今日本当は、渉にキスしたいって思ってたんだ。ずっと前から渉とキスしてみたいって興味があったから。だって、渉の唇って艶々していて、プルプルで。キスしたら気持ちよさそうなんだもん。でもさ……」  正悟が渉の顔を見てフワリと笑った。 「そんなに想っている人がいるなら、そんなことできないじゃん。あーあ。残念だなぁ」  正悟は冗談っぽく笑っているけど、今にも泣きだしそうな顔をしている。渉の持っていたアイスが溶けてツーッと手を伝っていく。 「な、なんだよそれ。正悟には俺の初めてをたくさんあげてるじゃん?」 「え? 渉の初めてを?」 「そうだよ」  自分で言い出しておきながら恥ずかしくなってしまった渉は、正悟からぷいっと顔を背けた。そんな渉の顔を、正悟が眉を顰めながら覗き込んでくる。 「僕、渉の初めてもらったっけ?」 「そうだよ! 俺の初めてをあんなに奪っておきながら罪の意識がないなんて、最低だな!?」 「なんだよ、それ。ちょっと心外なんだけど……。渉の何を僕が奪ったっていうのさ? まだ何も手を出してないじゃない?」 「まだって……。これから手を出す予定でもあるのかよ⁉」 「それは……。完全に下心がないって言ったら嘘になるかもしれないけど」 「…………」  いつも余裕な表情を浮かべている正悟が見せた拗ねた態度に、渉の胸が締め付けられる。新しい正悟の一面を知ることができて嬉しかった。 「で? 渉の初めてって何?」 「だから……」 「だから?」  正悟の顔が徐々に近付いてきて思わず後ずさる。そんな渉の腕を、まるで「逃がさない」と言わんばかりに正悟が掴んだ。 「だから、弁当を一緒に食べたり、ジュースを回し飲みしたり、さっきみたいに手を繋いだり……。こうやってどこかに出掛けるなんてことは、初めてだったんだ」 「え? 渉の初めてってそんなこと?」 「そ、そんなことってなんだよ⁉ 俺、手を繋いだことなんてなかったし、間接キスもしたことなかった……」  段々恥ずかしくなってしまい、最後のほうは小さい声になってしまう。顔から火が出そうになったから、思わず俯いた。 「ちょっと待って、渉。友人関係ってこんなに甘酸っぱかったっけ? なんか、想像してたのと違う……」  正悟まで顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。  二人の間を気まずい沈黙が流れる。お互いが顔を上げることが出来ないまま、唇を噛み締める。  渉の持っているアイスがポタポタと垂れて、そのまま地面に落ちてシミを作った。

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