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もう一つの記憶②
仁は大地主の長男で裕福な家庭に育ったアルファだ。それとは対照的に、正悟は一般家庭の出身だと話していた。両親は教員をしていて、決して裕福ではないけれど幸せな幼少時代を過ごしたようだ。
「だから僕も両親のような教員になりたいんだ」
そう楽しそうに話してくれた正悟を思い出す。
いつか結婚をして、子供を授かって。ありきたりだけれど、幸せな家庭を築きたいと思っているのだろう。正悟を見ながら渉はそう思った。
今二人の立場は、大きく変わってしまっている。貧しい家庭に生まれた宗一郎が財閥の令息として生まれ変わり、大地主の長男として生まれてきた仁が一般家庭に生まれ変わった。しかも、一番の違いは渉も正悟もアルファということだ。
どちらかがオメガであれば、男同士でも子供を授かることができる。しかし、今の渉はアルファだから妊娠をすることはできない。渉には、正悟が望んでいるような将来を実現してあげることもできないのだ。
「やっぱり、女の子のほうがいいよね」
ポツリと呟く。
本当はわかっていたのだ。仁は正悟の生まれ変わりなのかもしれないけれど、渉のように仁としての記憶はない。これから先も思い出すことはないのかもしれない。そして、正悟は普通の高校生であり、誰にも束縛されることなく自由奔放に恋愛をしている。
そこに、同性のアルファである渉が入り込む余地なんてないのだ。
それでも、心のどこかで自分達は特別な絆で結ばれているという思いもあったし、正悟はいつも世間知らずな渉に優しくしてくれた。だから、どこかで勘違いをして思いあがっていたのかもしれない。
「もうこれで終わりにしよう。結局生まれ変わったところで、俺達は幸せになれない運命だったんだ」
それ以来、渉は正悟を避けるようになった。
「あのさ、渉」
「ごめん、急いでるから」
「そっか、ごめん」
そんなやり取りをもう何度繰り返しただろうか。寂しそうに唇を噛み締める正悟を見る度に心は痛んだが、「これが正悟の為だから」、そう自分に言い聞かせることしかできなかった。
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