35 / 65

オメガになったアルファ④

 ――なんだ、これ……。  どんどん体が熱をもっていき頬が熱くて仕方がない。頭から水を被ろうと蛇口に手を伸ばした瞬間、突然強い力で手首を掴まれてしまい、蛇口に触ることができなかった。 「は? 何すんだよ!?」  驚いた渉が顔を上げると、そこには真っ青な顔をした正悟がいた。額からは汗が流れ、唇が小刻みに震えている。肩で呼吸をしており、切れ長の目が大きく見開かれていた。その鬼気迫  る形相に、渉は思わず息を呑んだ。 「しょう、ご……?」 「駄目だ、駄目だ、渉」 「は? 突然どうした? なっ……!?」 「渉、水は駄目だ!」  そのまま強く抱き締められると、あまりの力強さに一瞬息が止まる。物凄い力で渉を抱き締める腕とは反して、その体はガタガタと震えていた。 「水は、水は、駄目だ……」 「正悟……お前、まさか記憶が……」  ふわり。  その時、渉の体から甘い香りが漂い始める。そのむせ返るほど甘い匂いは、まるで美しい花を咲かせ蜜蜂を誘う花の香りのように感じられた。 「なんだ、この甘い匂いは……」  甘い香りはどんどん強くなっていき、渉と正悟を包み込む。 「なんで? 渉からいい匂いがする」 「え?」  まるで犬のように渉の首筋の匂いを嗅ぐ正悟が、渉を更に強く抱き締めた。 「いい匂い……」 「ちょ、ちょっと離して、正悟。お願いだから」 「嫌だ。離さない」  渉の肩に顔を埋めて、甘えた声を出している。耳元や項、鎖骨辺りに唇を寄せる正悟の姿は、まるで渉の香りと体を堪能しているようで……。羞恥心が全身を駆け抜けていき、ブルブルッと身震いをした。  ブワッ。  髪の毛が逆立ち、毛穴が全開になる感覚に襲われる。鼓動がどんどん速くなっていき、全身の血液が物凄いスピードで一気に体中を駆け抜けていった。 「く、苦しい……はぁはぁ……」  心臓が張り裂けてしまいそうなほどに拍動を打ち、肩で呼吸をしないと苦しくて仕方がない。 「渉、いい匂い」 「あッ……」  首筋をペロッと舐められただけで、口から自然と甘い声が零れる。正悟が触れた場所がどんどん熱を持ち、ヒリヒリして痛い。それでももっと触れてほしい……。  渉は乱れた呼吸を整えることもできないまま、正悟を見上げた。  正悟に抱き締められることが嬉しくて、触れるだけで気持ちよくて。こんなことを思ってはいけないという背徳感から、涙が溢れ出してくる。  ――でも駄目だ、正悟が欲しい。欲しくてたまらない。 「正悟、キスして?」 「……渉?」 「お願い、キスして……」  潤んだ瞳で正悟を見上げれば、明らかにいつもと違う正悟がいた。制服のワイシャツが汗に濡れて肌に張り付いていて、前髪からは汗の雫が垂れている。正悟の全てが艶めかしくて、渉の体温がどんどん上昇していった。  ――あぁ、自分はこの男に抱かれたいんだ。  頭の片隅でそう思う。

ともだちにシェアしよう!