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オメガになったアルファ④
――なんだ、これ……。
どんどん体が熱をもっていき頬が熱くて仕方がない。頭から水を被ろうと蛇口に手を伸ばした瞬間、突然強い力で手首を掴まれてしまい、蛇口に触ることができなかった。
「は? 何すんだよ!?」
驚いた渉が顔を上げると、そこには真っ青な顔をした正悟がいた。額からは汗が流れ、唇が小刻みに震えている。肩で呼吸をしており、切れ長の目が大きく見開かれていた。その鬼気迫 る形相に、渉は思わず息を呑んだ。
「しょう、ご……?」
「駄目だ、駄目だ、渉」
「は? 突然どうした? なっ……!?」
「渉、水は駄目だ!」
そのまま強く抱き締められると、あまりの力強さに一瞬息が止まる。物凄い力で渉を抱き締める腕とは反して、その体はガタガタと震えていた。
「水は、水は、駄目だ……」
「正悟……お前、まさか記憶が……」
ふわり。
その時、渉の体から甘い香りが漂い始める。そのむせ返るほど甘い匂いは、まるで美しい花を咲かせ蜜蜂を誘う花の香りのように感じられた。
「なんだ、この甘い匂いは……」
甘い香りはどんどん強くなっていき、渉と正悟を包み込む。
「なんで? 渉からいい匂いがする」
「え?」
まるで犬のように渉の首筋の匂いを嗅ぐ正悟が、渉を更に強く抱き締めた。
「いい匂い……」
「ちょ、ちょっと離して、正悟。お願いだから」
「嫌だ。離さない」
渉の肩に顔を埋めて、甘えた声を出している。耳元や項、鎖骨辺りに唇を寄せる正悟の姿は、まるで渉の香りと体を堪能しているようで……。羞恥心が全身を駆け抜けていき、ブルブルッと身震いをした。
ブワッ。
髪の毛が逆立ち、毛穴が全開になる感覚に襲われる。鼓動がどんどん速くなっていき、全身の血液が物凄いスピードで一気に体中を駆け抜けていった。
「く、苦しい……はぁはぁ……」
心臓が張り裂けてしまいそうなほどに拍動を打ち、肩で呼吸をしないと苦しくて仕方がない。
「渉、いい匂い」
「あッ……」
首筋をペロッと舐められただけで、口から自然と甘い声が零れる。正悟が触れた場所がどんどん熱を持ち、ヒリヒリして痛い。それでももっと触れてほしい……。
渉は乱れた呼吸を整えることもできないまま、正悟を見上げた。
正悟に抱き締められることが嬉しくて、触れるだけで気持ちよくて。こんなことを思ってはいけないという背徳感から、涙が溢れ出してくる。
――でも駄目だ、正悟が欲しい。欲しくてたまらない。
「正悟、キスして?」
「……渉?」
「お願い、キスして……」
潤んだ瞳で正悟を見上げれば、明らかにいつもと違う正悟がいた。制服のワイシャツが汗に濡れて肌に張り付いていて、前髪からは汗の雫が垂れている。正悟の全てが艶めかしくて、渉の体温がどんどん上昇していった。
――あぁ、自分はこの男に抱かれたいんだ。
頭の片隅でそう思う。
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