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オメガになったアルファ⑥
「ん、んん……」
「あ、目が覚めた。大丈夫か?」
「え? 貴方は?」
渉が目を覚ました時には、自室のベッドに寝かされていた。体はまだ火照ってはいるものの、あの異常とも言えるほどの興奮は収まっている。
体が怠く、起き上がることさえ億劫だったが、目の前にいる見知らぬ青年の存在に驚いた渉はベッドから飛び起きた。
「おい、まだ急に起きるなって。ヒートを鎮める抑制剤の注射を打ったばかりなんだからさ」
「ヒートって、俺はアルファじゃ……」
「アルファがヒートするわけないだろうが?」
「でも……」
「でもじゃない。いいからとりあえず一度落ち着け」
そう言いながら渉をベッドに寝かせてから、布団を掛けてくれる。年は渉よりかなり上に見える。漆のように真っ黒な髪に恵まれた体格。いかにも遊び人といった風貌だが、渉に対する態度はとても柔らかい。
渉と同じで口調は荒そうだが、その仕草から良家の令息であることが伝わってきた。
――この人、どこかで会ったことがある。子供の頃? ……いや、それよりもっと前?
咄嗟にそう感じるのだが思い出すことができない。眉を顰める渉の頭をクシャクシャッと撫でてくれた。
「まだ頭がぼんやりしているだろう? もう少し寝ていろ」
低くて耳心地のいい声で囁きながら、目の前の男がふっと微笑む。その笑みを見た渉は、ハッと目を見開いた。
「……あ、もしかしたら、この前ガレージで見かけた人……」
まだはっきりとしない頭で、記憶の糸を手繰り寄せる。しかし今の渉には、何かを考えるといった作業は難しいようだ。
そんな渉を気遣うように、今度は優しく髪を梳いてくれる。
「お前はアルファとして生まれてきたが、何かがきっかけとなってオメガに転換しちまったんだ」
「オメガに……?」
「そうだ。アルファがオメガに転換するっていう話は時々あることだ。別に珍しいことじゃない。……が、何かきっかけがあったんだろうな」
「きっかけ?」
「そう。きっかけだ。例えば、アルファに恋をしてオメガになりたいと願ったとか、前世がオメガだった、とか……」
「前世が……オメガ……?」
「そう。まぁ転生なんてことが本当にあるのか? なんて信じられないかもしれないけどな」
目の前の青年が不敵な笑みを浮かべた瞬間、部屋の外が騒がしくなるのを感じる。荒々しい足音と共に、大声で喚き散らす声が少しずつ近付いてきた。
「チッ。もう来たか……。いいか? 何があっても驚くなよ。お前には俺がついてるから」
「え? い、意味がわからないんだけど……」
「いいから、お前は一切口を出すな」
そう言いながら、渉の頭を乱暴に撫でてくれる。それから青年は扉の方に視線を移した。
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