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歪んだ真実②

「いつヒートがくるんだろう」  カレンダーを見つめ、渉は不安に駆られる。  オメガに転換して数週間が経過した。テレビでは「夏休みに突入!」と楽しそうな旅番組を放送していて、渉は寂しい思いに駆られる。  こんなことになっていなければ、正悟と楽しい夏休みを過ごせただろうか。 「プールに行きたかったなぁ」  高層タワーマンションに設置されている室内プールではなくて、屋外にある大きくて流れているプール。それに波のあるプールも、目が眩むほど高い場所から滑り降りるスライダーも体験したかった。 「夏祭りにも行きたかったし、映画館にも行ってみたかったなぁ」  やってみたいことはたくさんあったのに、今の渉はカレンダーを眺めながら「今度はいつヒートが来るのだろう」と不安に駆られる毎日。  オメガなのだから定期的にヒートがくることは仕方ないのだが、渉の体ではヒートにまだ慣れていないため不安は募る一方だ。 『ヒートが来たら俺を呼ぶんだぞ』  慧には常日頃からそう言われている。慧は渉の番なのだから、ヒートを鎮めるには彼に抱かれるのが一番簡単な方法だ。わかってはいるのだが、渉は記憶に残る限り慧に抱かれたことがない。もちろん、誠にもだ。想像しただけで、顔から火が出そうになる。 「あー! ヒートなんか来なければいいのに……面倒くせぇ!」  渉はカレンダーが吊るされている壁を、思い切り拳で殴ったのだった。 ◇◆◇◆  それはある夕方の出来事だった。  空は真っ赤に染まり、タワーマンションの大きな窓から見えるビルたちが夕日に照らされて、キラキラと輝いている。ここには聞こえてこないけれど、このくらいの時刻にはヒグラシの鳴き声が聞こえてくるのかもしれない。  かつて仁と二人で肩を寄せ合い、縁側でヒグラシの鳴き声を聞いていた頃が懐かしい。ヒグラシのどこか物悲しい声と涼やかな風鈴の音が、渉の心に焼き付いて離れないのだ。 「懐かしいな」  そんなことを思い出してしまえば、目頭が熱くなってくる。  結納の段取りが徐々に決まっていき、渉の周囲がやけに騒がしく感じられる。まるでお祭りの準備期間のようだ。 「俺、結婚するんだってさ」  自分に言い聞かせるように何度か呟いてみたけれど、やっぱりまだ夢なのではないか……と、半信半疑の自分もいる。  オメガに転換してしまったことさえ受け入れられていないのに、渉の周りでは、自分が知らない間に色々なことが決まっていく。渉は、その決定事項を後から聞かされるだけだった。   それがひどく寂しく感じられる。  そんな日々に耐えられなくて、渉はベッドの中で過ごす時間が増えている。どうしても、正悟と過ごした高校生活がキラキラと輝いて見えるのだ。  ――もう一度、あの頃に戻りたい。  何度神様にお願いしても、その願いは叶うことなんてなかった。

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