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歪んだ真実⑤
「すまん、渉。待たせたな」
渉の姿を見つけた慧は嬉しそうな顔をしたが、その笑顔はすぐに消え去っていった。
「あぁ……それ見つけちゃったんだな?」
「……なんで? 慧さん。なんでこんな薬がここに? これオメガを強制的に発情させる薬だよね?」
「まずったな、まさか渉に見つけられるなんて。ついてないな」
渉がオメガに転換したとき、薬について調べたことがあった。オメガを強制的に発情させる薬はもちろん治療にも使われるが、犯罪に使われるケースも多い。オメガを強制的に発情させ、レイプするなど……残念ながらそんな事件が後をたたない。
慧が髪を掻き上げながら、渉が持つ薬袋をそっと取り上げる。それから、渉の目の前にしゃがみ込み、愛おしそうに目を細めた。
「渉、俺たちは前世では結ばれなかった。そういう運命だったんだ」
「な、なんだよ、突然……前世の話なんかして」
慧が突然何を言い出したのかが理解できず、渉は慧を睨みつけた。
「でも、大丈夫。だって俺は気付いたんだ。運命は簡単に作り変えられるものだって」
「……運命を、作り変える?」
「そう。運命が気に入らなければ自分好みに作り変えればいいんだ」
渉が顔を上げれば、想像以上に慧の顔が近くにあり、思わず体を硬くする。体を抱き寄せられ、抵抗する間もなく唇を奪われてしまった。
「この項の噛み傷は俺がつけたものじゃない。だから俺はお前の番ではないんだ」
「……は? 今更、何言ってんだよ」
慧が何を言いたいのかがわからずイライラしてしまう。
――慧が自分の番ではない……? じゃあ一体誰が……。
「俺はお前の番ではないから、お前がヒートしたとしても、そのフェロモンを感じることはできないし、ヒートを沈めることもできない。そもそも、オメガは番以外のアルファに抱かれることを嫌うからな。だから、お前の番ではない俺は、お前にヒートがきた瞬間に番ではないことがバレてしまう」
「慧さん、あんたは一体何を企んでいるんだ?」
「ふっ。だからお前の食事にこっそり薬を混ぜて、強制的に発情させてしまおうと考えていたのさ」
「……なんでそんなことを……」
「お前を俺のものにするためだ」
慧に顎を掴まれ、強引に視線を合わせられる。不敵に笑う慧にいやらしく唇を舐めあげられた。
「誰にもバレずに薬を飲ませ、お前にヒートがくれば、自然にヒートがきたものだと誰もが思うだろう。薬を盛ったなんて、疑う奴なんていないはずだ」
「……ふざけるな」
「ヒートが来たお前を無理矢理にでも抱いて孕ませてしまえば、もう誰も文句を言う者なんていないはずだ。そして、お前は俺のものとなるんだ」
「なんだよ、それ!?」
自己陶酔したように言葉を紡ぐ慧を目の前にして、渉は吐き気を覚える。
「この薬は香夏子様の父上が処方してくれたものだ」
「香夏子の? じゃあ、まさかあの時……」
「そうだ。将来、君の御父上の会社が俺のものになっても、『産業医を続けさせる』という契約をあの方と交わし、密かにこの薬を処方してもらった」
「そんな……」
こんなことを一体誰が信じられるのだろうか。渉の目の前が真っ暗になり、立っているのがやっとだった。気を抜けば、すぐに意識が遠のいてしまいそうだ。
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