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最終章 ずっと二人で①
「んん……」
渉が目を覚ました時には辺りはすっかり真っ暗になっていた。
視界を彷徨わせると、近くには大きな池があって、蓮の花が可愛らしい花を咲かせている。軒下につるされた風鈴が涼やかな音色を奏でていた。
「あ、ここは」
前に正悟が連れてきてくれた離れだった。渉達が生まれ変わる前、人目をはばかり逢引きしていた場所。たくさんの思い出が詰まった場所だった。
「……正悟? 痛ッ」
正悟が見当たらないことに気付き体を起こすと、腰に重苦しい痛みを感じた。思わず顔を顰める。縁側に寝ていた自分が一糸纏わぬ姿で、肌掛けを掛けられている状況だということを把握した渉は、一瞬で茹蛸のように真っ赤になってしまった。
「そうだ、あの後……」
池の中から正悟に抱き抱えられ、ここに連れてこられた渉は、正悟と一線を越えたのだった。その時のことを思い出すと叫び出したくなってしまう。いくらヒートしていたとはいえ、あんなにも乱れてしまった自分が恥ずかしくて仕方がなかった。
体の疼きはまだあるものの、ヒートは収まりつつある。あれから、一体何回抱き合ったのだろうか。
縁側に干された二人の服から、まるで雨粒のように雫が垂れている。遠くからは、ひぐらしの物悲しい鳴き声が聞こえてきた。
「あ、渉。目が覚めた?」
「正悟……」
浴衣を着た正悟が薬箱を片手に渉の傍にやってくる。
「これ着てもらえるかな? 箪笥の中にしまってあった浴衣なんだけど……多分渉なら着られると思うんだ。あと、首の傷を手当したい……いいかな?」
「あ、うん。ありがとう」
自分が裸でいることに気付いた渉は、肌掛けの中に潜り込んだ。
「ごめんね、お互いにヒートしていたとは言え、僕も加減できなくて……。あの、体は大丈夫?」
「……だ、大丈夫……」
「そっか……」
二人して頬を赤らめたまま俯く。気まずい沈黙を破ったのは正悟だった。
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