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その檻(うで)は甘美(3)

 ヴィルターの顔がゆっくりと近付く。  鼻先がツンとあたり、緋色の毛先が額に触れた。  くすぐったいとよじった身体を、今度は両腕で抱きすくめられる。  微かに触れ合う唇。 「んっ……」  熱を奪うようにゆっくりと押しつけられる。  カチッと歯が当たり、一瞬ふたりの顔は離れた。  至近距離で瑠璃色と緋色の視線が絡む。  小さな笑みがこぼれ、やがて瑠璃の瞼が閉じられた。  再び重ねられる唇。  湿り気をおびた柔らかな粘膜が重なっては離れ、音をたてた。  ぬるりとした感触に唇を割られる。  舌が触れ合う感触。  ぬるぬると上顎を嬲られ、舌を吸われた。 「んんっ……」  寝台に座り緊張に固まっていた身体が、激しいくちづけに解かれていく。  スルスルと夜着の裾に手を入れられ、レオンハルトは切なげに息をついた。  ヴィルターの冷たい手が、また前を弄ってくれるのかと思うと心音は高まり、期待に胸が燃える。 「ヴィル?」  しかし今度は親友の手はレオンハルトの屹立を掠めて通りすぎてしまった。  するり。するり。  肌を這いあがる指先。  下腹部を撫で、へそをなぞり、さらに上へと。  胸の突起を探り当てると指の腹で優しく擦った。 「んっ?」 「レオ、くすぐったい?」  微妙に顔をしかめるレオンハルトに笑いかけてから、ヴィルターは彼の身体を寝台に押し倒した。  小さくあがった声は戸惑いか抗議か。  はしたなく濡れる下着を見下ろす緋色の眼差し。  夜着の裾を強引にたくしあげられる。  そのまま胸元まで一気にまくりあげた。 「きれいだ、レオ」  白い肌が薄桃に染まっているのは興奮、あるいは恥じらいだろうか。  酒のせいかもしれないし、窓から射しこむ緋い月の光ゆえかもしれなかった。  ぷくりと勃った乳首は微かに震えている。 「……そんなに見るな、ヴィル」 「何故?」 「なぜって……」  視線から逃れるように身をよじるレオンハルトの手首をつかみシーツに押しつけたのは、ヴィルターとて興奮してのことだろう。 「あっ……」  唇で乳首を喰まれ、レオンハルトは声を漏らした。  慌てて自分の唇を噛む。  あまりに弱々しくか細い声が自分のものとは思えなかったのだ。 「声、我慢しないで。レオ」 「んんっ、そこでしゃべるな……っ」  瑠璃色の眸に涙がにじむ。  そこが敏感な処だなんて知らなかった。  指先で弄られたときは、ただくすぐったかっただけなのに。  ヴィルターの息がかかるたびにむずむずと胸がこそばゆくなる。  腰が震え、唇を噛みしめていないとはしたない声が漏れそうだ。  ざわりと這う舌の感触。  唾液に濡れた肌に張りつくヒヤリとした空気が心地好い。  口の中に含まれて何度も吸われて、レオンハルトの乳首がふるふると震える。 「ヴィル……ヴィルに触られたとこ、きもちいい……。最初からきもちいい場所だったみたいだ」 「レオがそんなこと言ったら、おれも止められないよ?」  ヴィルターの手が緩む。  手首の戒めを解かれ、レオンハルトは緋色の髪に指先を滑り込ませた。  血のような髪の色が、こんなにも優しく見えるなんて。  再び顔が寄せられ、レオンハルトは唇をひらいてヴィルターのくちづけを受け入れた。  口中を蹂躙されながら、親友の首筋に腕を回す。  身体を這い回るヴィルターの手は、今度は下へとおりていった。 「あぁっ……」  ずっと触ってほしかった屹立を指先で擦られ、漏れる吐息。  二本、三本……ぬるぬると上下にしごかれる指の感触に、寝台の上でレオンハルトの腰が跳ねる。 「んんっ、もうやめ……っ」  射精(で)る──という言葉が恥ずかしくて口にできずにいるうちに、ヴィルターの手の動きはますます早くなった。 「んっ、ヴィルぅ……もう……」  喉の奥で漏れる叫び。  腰をびくびく震わせながら、レオンハルトは親友の手を白濁液で汚した。 「あっ、はぁっ……はぁっ……」  快感を放出し力を失った両手がヴィルターの首を滑り、シーツに落ちる。 「レオ、君の泣き顔は綺麗だな」  瑠璃色の眸から、はらはらと零れる滴をヴィルターは冷たい指先で何度も拭ってくれた。 「ヴィル、もう一回キスしてくれ……」  しどけなく開かれた唇を何度もついばんで、親友はレオンハルトを抱きしめる。  まるで緋色の檻に囚われたようだ。  力強い腕に抱きしめられ、身じろぎすらできない。  だが、その腕は甘美で、レオンハルトの心はゆっくりと絡めとられていった。

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