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緋色の闇(7)
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レオンハルトの父フレデリク・クラインが没したのは、今から二年前のことである。
《公会議》の一員だった父は、議場で血を吐いて倒れたのだ。
以前からさまざまな噂はあったという。
下級貴族のくせにルーカス王と距離が近すぎるだの、公会議議員を辞すと漏らしたことが王の不興を買っただの。
当時十七歳だったレオンハルトに、真相など分かる由もない。
青の衣服を血の色に染めて屋敷に運ばれてきた父は、すでに事切れていたのだから。
葬儀は寂しいものであった。
レオンハルト、エドガー兄弟と使用人のほか、参列者は二人。
レオンハルトの親友であるヴィルターと、その父ジェロームだけである。
公会議場を血で汚し、王の気分を害した。
それはつまり、クライン家の没落を意味していたのだ。
クラインの名は、そのままこの国の歴史から消えていくはずであった。
翌年、長男のレオンハルトが跡継ぎとして認められ家の断絶を免れたのは王の気まぐれにすぎない。
十八歳の成人を待って、父の跡を継ぐかたちで公会議議員として迎えられたのも恩情だろう。
同時にシュルツ家の令嬢シンシアとの婚約も決まった。
だから、レオンハルトはこの座に縋りつくのだ。
商人らから嫌がらせを受けても、キリキリと胃を傷めても、この地位を失うわけにはいかないのだ。
父子二代に渡って王を怒らせては、クラインの名は今度こそ潰えてしまう。
そうすると弟の未来もない。
父の名誉も地に落ちたままだ。
守るためなら、何でもする。
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