16 / 94
緋色の闇(13)
「レオがいいなら、するよ」
耳元でそう囁かれ、レオンハルトは戸惑ったように顔をしかめた。
なんでそんなことを聞くんだ? 同意なんか求めずに、してくれたらいいんだ。
何となれば、嫌だと首を振っても構わず触れてくれたっていいのに。
泳ぐ視線が、肩に置かれたヴィルターの手の上で留まった。
関節のところが骨ばった長い指。
短く整えられた爪。
この手で秘部を擦りあげてくれたら……。
コクリ。
頷くと、両肩に力がこめられた。
逆らわず寝台に腰を落とす。
俯く視界に入った己の足がだらしなく開いていることに気付き、レオンハルトは慌てて膝をそろえた。
ゆっくりとボタンを外す手をじっと見つめる。
息を殺してしまうのは、心臓の高鳴りがヴィルターの耳に届かないようにとのささやかな抵抗だ。
「レオ、力を抜いて」
ヴィルターの上体がのしかかり、レオンハルトは寝台に押し倒された。
窓から射しこむ午後の陽射しが、白い肌に影を落とす。
「ヴィル、カーテン……」
「外からなんて見えないよ」
「でも……」
自分も上着を脱いで、ヴィルターは横たわるレオンハルトの横に膝を寄せた。
「許せないな」
そっと伸びる手が、喉元の傷に触れた。
「レオの綺麗な肌に傷をつけるなんて」
「もういいよ。怪我なんてどうでも」
そんなことより早く触って。
夕べみたいに昂らせて。
その手で、つらいことすべてを忘れさせてくれ。
願いが届いたのか、その手は首から頬へと移動した。
さすさすと触れられるたびにヴィルターの小指の爪が耳たぶをくすぐる。
親友の顔が近付き、レオンハルトは目を閉じた。
くちづけは甘い。
下唇を何度も吸われたのち、ヴィルターの舌がレオンハルトの上唇を這う。
割るように唇を押し拡げて内部へと侵入してきた舌は、生きもののように口中を蹂躙した。
粘膜が触れては離れる淫靡な音が、頭蓋骨の中で何重にも響くようだ。
口の中にあふれる唾液は、もはや誰のものか分からなかった。
離れると同時に互いの唾をコクリと呑みこみ、そして再び求め合う唇。
ついばむように、何度も重なる。
「はぁっ……」
汗ばんだ肌に、ヴィルターのサラリと冷たい素肌が触れて心地好い。
「お前が言ったように風呂に入っておけばよかった」
「ん? 何で?」
「俺、汗かいてる……」
ヴィルターはレオンハルトの首筋に顔を埋めた。
「レオの汗の匂い、おれは結構好きだよ」
「何言ってるんだ」
思わずこぼれる笑い声。
知っていた。ヴィルターが何でも受け入れてくれることを。
レオンハルトは親友の背におずおずと手を回した。
ああ、もっとぴったりとくっついていられたらいいのに。
ともだちにシェアしよう!

