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緋色の闇(13)

「レオがいいなら、するよ」  耳元でそう囁かれ、レオンハルトは戸惑ったように顔をしかめた。  なんでそんなことを聞くんだ? 同意なんか求めずに、してくれたらいいんだ。  何となれば、嫌だと首を振っても構わず触れてくれたっていいのに。  泳ぐ視線が、肩に置かれたヴィルターの手の上で留まった。  関節のところが骨ばった長い指。  短く整えられた爪。  この手で秘部を擦りあげてくれたら……。  コクリ。  頷くと、両肩に力がこめられた。  逆らわず寝台に腰を落とす。  俯く視界に入った己の足がだらしなく開いていることに気付き、レオンハルトは慌てて膝をそろえた。  ゆっくりとボタンを外す手をじっと見つめる。  息を殺してしまうのは、心臓の高鳴りがヴィルターの耳に届かないようにとのささやかな抵抗だ。 「レオ、力を抜いて」  ヴィルターの上体がのしかかり、レオンハルトは寝台に押し倒された。  窓から射しこむ午後の陽射しが、白い肌に影を落とす。 「ヴィル、カーテン……」 「外からなんて見えないよ」 「でも……」  自分も上着を脱いで、ヴィルターは横たわるレオンハルトの横に膝を寄せた。 「許せないな」  そっと伸びる手が、喉元の傷に触れた。 「レオの綺麗な肌に傷をつけるなんて」 「もういいよ。怪我なんてどうでも」  そんなことより早く触って。  夕べみたいに昂らせて。  その手で、つらいことすべてを忘れさせてくれ。  願いが届いたのか、その手は首から頬へと移動した。  さすさすと触れられるたびにヴィルターの小指の爪が耳たぶをくすぐる。  親友の顔が近付き、レオンハルトは目を閉じた。  くちづけは甘い。  下唇を何度も吸われたのち、ヴィルターの舌がレオンハルトの上唇を這う。  割るように唇を押し拡げて内部へと侵入してきた舌は、生きもののように口中を蹂躙した。  粘膜が触れては離れる淫靡な音が、頭蓋骨の中で何重にも響くようだ。  口の中にあふれる唾液は、もはや誰のものか分からなかった。  離れると同時に互いの唾をコクリと呑みこみ、そして再び求め合う唇。  ついばむように、何度も重なる。 「はぁっ……」  汗ばんだ肌に、ヴィルターのサラリと冷たい素肌が触れて心地好い。 「お前が言ったように風呂に入っておけばよかった」 「ん? 何で?」 「俺、汗かいてる……」  ヴィルターはレオンハルトの首筋に顔を埋めた。 「レオの汗の匂い、おれは結構好きだよ」 「何言ってるんだ」  思わずこぼれる笑い声。  知っていた。ヴィルターが何でも受け入れてくれることを。  レオンハルトは親友の背におずおずと手を回した。  ああ、もっとぴったりとくっついていられたらいいのに。

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