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緋色の闇(15)
「そんなことしたら多分、痛いよ? レオ」
「……痛くてもいい」
後ろを撫でていた指の動きが止まる。
「駄目だよ、レオ。そんなこと言ったら、おれだって我慢できなくなる」
──大事にしたいんだよ、レオ。
苦しげな囁きに心臓が早鐘を打った。
もどかしい。
けれども、大切にされているという感覚に眸の奥がじんわりと熱くなる。
──駄目だ、泣く。
咄嗟にレオンハルトは両手で顔を隠した。
「レオ、顔見せてよ」
「嫌だ」
「レオ……」
ヴィルターの声に困ったような響きが混ざる。
「じゃあ、内部(ナカ)を触ってあげる。嫌だったら言って」
両手の指の間から眸だけを覗かせて、レオンハルトは「うん」と瞬きした。
後孔に添えられた中指。
「レオ、おれの指呑んで。そう……上手」
粘膜をやさしくくすぐっていた指が侵入を試みようと後孔を突いた。
「あん……っ」
得体の知れない圧迫感にレオンハルトは身をよじる。
多分、指が一本。
しかも途中まで挿っただけ。
しかし腹を押し潰されるような感触は苦痛以上の戸惑いを彼に与えた。
「つらい? 抜く?」
それでもふるふると首を振るのは、親友への信頼に他ならない。
「んんっ……」
もう一本挿し込まれると自然と涙があふれ、レオンハルトは再び顔を隠した。
初めて触れられた処である。
内部で動く指が最初に刺激したのは痛覚だったが、じきにそれはくすぐったさをともなう感覚に変じた。
触られたところがむずむずと震える。
「この奥に気持ちよくなる場所があるらしいよ」
甘い声は誘惑か。
「奥に? 触ってくれ……」
指がさらに奥へと押しこまれる感覚。
身体を裂かれる痛みに、たまらずレオンハルトは呻き声を漏らした。
「……今はやめとこう。レオにつらい思いをさせたくない」
指がゆっくりと抜かれる。
ほっとすると同時に、物足りなさにレオンハルトは唇を尖らせた。
「次はする?」
「うん、次はするよ」
「ん……」
微かな笑みがこぼれる。
次があるんだ。
またこうやって身体をさわって、ドロドロに甘やかしてくれるんだ。
これが快感というものなのか、レオンハルトにはまだ分からない。
優しく触れられ、ただ満ち足りていた。
たとえすべてを失ったとしても、ヴィルターはそばにいてくれる。
こんなにもどうしようもない自分を抱きしめ、優しく包んでくれる。
──ヴィルさえいれば。
このときは本当にそう思ったのだ。
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