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高貴な瑠璃は散らされる(5)

 その夜、レオンハルトはエドガーを自宅の屋根裏部屋に閉じ込めた。  扉についた閂を外から動かすだけの簡易的なものとはいえ、家の中で唯一、外から鍵をかけられる部屋だ。  駆け落ちに失敗して落ち込んでいるのか、あるいは兄の立場に思いを至らせ反省しているのか。  エドガーの抵抗はない。 「……お前を守るためだ、エドガー」  ガチャリと鍵を動かして、扉ごしにレオンハルトは呟いた。  一晩……あるいは明日一日ここで過ごせば、きっと考えを改めてくれるに違いないと信じて。  扉の向こうからは声はおろか衣擦れの音すら聞こえないが、レオンハルトはしばらくその場を動かなかった。  ──そういえばと、ふと思い至る。  子どものころ、兄弟とヴィルターの三人で屋敷の中でかくれんぼをして遊んだっけ。  あのころは母も生きていて、父も穏やかだった。  家の中は笑いと愛に満ちていた。  ──そうだ。エドガーがこの屋根裏部屋に隠れていると知りながら、ヴィルの奴が外から鍵をかけたんだった。  エドガーが家中に響くくらいの大声で泣いて、あとで母にひどく叱られたものだ。  懐かしい思い出に目を細める。  屋根裏の廊下にある小さな窓から眺める月は、中天からすでに傾いている。  今夜は眠れそうにない。  レオンハルトは我が身をかき抱いた。  身体が熱い。  血液が沸騰しそうだ。  冷たいものに触れたい。  こんなときですらヴィルターの手のことを考えている自分に気付いて、レオンハルトは片手で目元を覆った。  夜着に着替えて寝台に入ろう。  眠れなくても目をとじて、そうして何とか夜をやりすごそう。  朝になれば、きっと何もかもましになっているはずだ。  夜明けにほんの少し微睡んだろうか。  そのまま深い眠りに落ちて、いっそ目覚めなければ良かったのにと……彼は思うことになる。  目覚めたレオンハルトには、さらなる地獄が待っていた。    ※  ※  ※

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