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高貴な瑠璃は散らされる(9)
「……どうした、レオンハルト・クライン」
同じ質問に、レオンハルトの視界はグルリと回転する。
数歩よろめいた身体は、にじり寄ったルーカス王に受け止められた。
「へ、陛下、申し訳ありませ……」
腰を抱かれ、ぐいと引き寄せられる。
王の長い金髪が視界を覆うほど近く。
「弟のために公会議議員の地位を失うか? そうすればクラインなんて弱小貴族は存続すらできなくなるぞ」
レオンハルトの瑠璃色の眸が見開かれたのは王の言葉のせいか。
あるいは異様に近いその距離のせいか。
実に分かりやすい脅しとともに、王の顔がさらに近付く。
「陛下、何を……?」
反射的に王の胸を押しやろうとするも、両手に力が入らない。
そのまま唇を奪われた。
「やめ……っ」
必死に首を振って逃れるものの、再びくちづけを強いられる。
強く吸われ、固く閉じた唇を舌で割られた。
逃げる顔を両手で押さえつけ、王の舌はレオンハルトの口中を蹂躙する。
舌と舌が絡むちゅぷちゅぷという音が頭の中で地獄のように反響した。
足がもつれてよろけたところを押し倒される。
くるり。
回転する視界に昨日見た豪奢な天蓋、続けて王の顔が映る。
抵抗する己の腕が恐ろしく緩慢な動きしかしないことに、レオンハルトは驚愕した。
「薬が効いてきたようだな」
「な、何を……」
身体が異様に重い。
ワインに何か入っていたのか。
「適量だと深い眠りに落ち、何をしても一晩目覚めないと聞いた。命に関わってはいけないとの思いがあったから、少し匙加減を誤ったかな。意識がハッキリしているようだ」
「や、やめてください。陛下……」
手首をつかまれ、のしかかってくるルーカス王。
今更ながら王が何をしようとしているのか悟って、レオンハルトは言うことを聞かない手足を懸命にばたつかせた。
「なぁ、レオンハルト・クライン」
レオンハルトの唇に舌を這わせ、王は勝ち誇ったように囁く。
「弟への罰だが……見なかったことにしてやってもいい」
──おまえ次第だ、レオンハルト・クライン。
王はこう言っているのだ。
身体を捧げよ。
そうすれば王の所有物であるシンシアを奪った罪は見逃してやる。
公会議議員の地位も失わずにすむと。
「な、なんで私を……?」
顎をつかまれ、至近距離で目を合わせられる。
「その眸だ、レオンハルト・クライン。高貴な瑠璃の眸。その眸をどうしても僕のものにしたいんだ」
再び寄せられる唇。
為すすべなく口中への侵入を許してしまう。
上着を剥ぎ取られ、シャツを裂かれた。
「へ、陛下っ。私は男だ。お相手はできません……っ」
「そうか?」
のしかかる男の目に迸る熱情を見て、レオンハルトの表情が引きつった。
必死の抵抗は、哀れなほど震えている。
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