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「俺を奪え」(2)

 雨に濡れたシャツは肌に貼りついていて、なかなか剥ぎ取ることができない。  苛立ちからか、ヴィルターの手つきが荒くなった。 「ヴィル、痛い……」 「ご、ごめん」  身体中に刻まれた王のくちづけの痕を、ヴィルターに見られたくなどない。  だが、足はもう一歩たりとも動かなかった。  王の寝室を飛び出し、馬にしがみついて家へ駆ける。  それだけで精も根も尽き果ててしまったのだ。  されるがままに任せ、レオンハルトはため息をつく。 「ヴィルの手、つめたいな。きもちいい……」  トロリと遠くをみやる視線に危ういものを感じたか、ヴィルターの手が止まった。 「レオ、ごめん。守れなくて」  おずおずといった様子で背に回される冷たい手。 「でも、二度とこんな目に合わせない。もうレオの側を離れない。絶対に守るか、ら……」  ヴィルターの語尾が掠れ、緋色の眼差しが驚愕に見開かれる。  レオンハルトの顔が迫ったのだ。  整った顔立ちだけに、生気を失った表情は美しく見える。  噛みつくような勢いで、ヴィルターの唇に自らの口を押しつけた。  歯がぶつかりヴィルターが呻き声を漏らすも、気にする素振りもない。  親友の髪をかき抱いて、レオンハルトは下手くそなくちづけを何度も繰り返した。  舌を使ってくちづけに応えながら、ヴィルターはレオンハルトのシャツを剥ぎ取る。 「レオ、おれのすべては君のものだ」  囁くと、ほかの男の精液がついた身体を抱きしめた。  心臓の鼓動が重なり合う。  窓を打つ雨粒がますます激しく音たてるなか、どれほど抱きあっていただろうか。  ヴィルターの腕の中で、細い身体が身じろぎした。 「……湯に入る」  その声に、ほんのすこし張りが戻っていてヴィルターは安堵したようだ。  あからさまに表情を緩める。 「おれが洗ってやるよ」 「うん……」  ばあやが用意していてくれたのだろう。  バスタブの湯は幾分冷めていたけれど、昂った気持ちにはむしろ心地好い温度であった。  ぬるま湯の中に身を沈め、レオンハルトは眸をとじる。  ヴィルターの手が腕を、肩をすべり、鎖骨のくぼみを執拗になぞった。  胸を何度も撫で、膨れあがった両の乳首を宥めるように擦る。 「んっ……」  とろけるような甘い表情に、ヴィルターは口元を歪めた。 「レオ……もう二度とおれ以外の奴に、そんな顔を見せないでくれ」 「そんなの、見せるわけない。気持ちいいのはお前の手だけだ。お前の手と唇と舌……お前の全部」 「レオ……」  冷たい手が腰を這い降りる。指が後孔をなぞった。 「いたっ……」  昨夜は気持ち良かったその場所は、今や腰が引けるほどの痛みにひりつく。 「レオ、少しだけ我慢して」  挿し入れられ、内部で指をかき回された。 「あっ、んんっ……」  ルーカス王の精液があふれ出て、たちまち湯が濁る。  幾筋か混ざる血に、ヴィルターは目元を歪めた。

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