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「愛」のおもいで(7)
気持ち好いところをゆっくり擦られ、繋がっている最奥が切なく潤んだ。
服を脱ぐ僅かな時間も待てず抱きあったのだが、今となってはふたりを隔てる薄布がもどかしい。
「ずっと、そばに……?」
「うん、約束するよ。レオ」
緋色の髪にレオンハルトは顔を埋めた。
どこか懐かしい夕暮れの匂いを思いきり吸いこむ。
すべてを失ったわけじゃなかったのだ。
この男さえそばにいてくれたら、自分はきっとやり遂げられる。
「なぁ、ヴィル。ルーカス王の即位は二十年前だ。俺たちは生まれていない。でも、不自然だと思わないか?」
「何が?」
ゆるやかに動かしていた腰を止め、ヴィルターはレオンハルトのシャツをクイと引っ張る。
露わになった首筋に舌を這わせた。
「……んっ、ル、ルーカス王の代になってから《公会議》の顔ぶれが一変したらしいんだ」
「代替わりで人を入れ替えたんだろ。そんなの別に珍しいことでもないだろ。任命権は王にあるんだから」
「そっ……だけど」
何が言いたいんだと、ヴィルターに額を寄せられた。
緋色の眼差しに見つめられ、レオンハルトの瑠璃色の眸が潤む。
「それだけじゃなくて……」
「なに?」
囁く声が互いの鼻先をくすぐる。
そのまま唇を寄せたい誘惑を振り切って、レオンハルトはこう続けた。
「公会議議員だけなら分かる。でも、側近や召使いに至るまで入れ替わったと聞いた。おかしいと思わないか?」
腰を動かされたら、快楽に思考が負けてしまう。
だからレオンハルトはヴィルターの返事を待たず、言葉を紡ぎ続ける。
繋がった奥が時折ビクリと震え、くすぐられるような心地よさがじわりと全身を走るが唇を噛みしめて耐えた。
「それだけじゃない。公会議の席でちらと小耳に挟んだんだ。なぁ、ヴィル……」
問いかける声は、しかしどう堪えても甘いものとなる。
「……以前は王や諸侯らは、紋章を使っていたって知ってるか?」
ヴィルターが無言で首を横に振ったのは、腰を揺すりレオンハルトの奥を征服したいとの思いを必死にこらえているせいだろう。
「ルーカス王の代になって、紋章は廃止された。偽造や悪用の可能性を考えたら、いっそ使用しないほうが合理的だという理由で。ヴィル、聞いてるか?」
「あ、ああ……」
「紋章の記録まで廃棄したと聞いて、俺は驚いたんだ。そんなの、後世への冒涜じゃないか。なぁ、何か隠したかったんじゃないかと思わないか。ヴィル?」
問いかけに応えるように、ヴィルターはレオンハルトの細い腰を抱きしめた。
「あっ、んんっ……ヴィル、駄目だ……って」
内部で固いものがぬるりと動き、レオンハルトの身体が震える。
ちゅぷちゅぷと、はしたない音が欲情をさらけだした。
「全部、おれに任せろ。レオが知りたいことは……ぜんぶっ、おれが暴いて……やるからっ」
身体を上下に揺すられる。
落ち着いた口調を保っていたレオンハルトの声が、ついに耐えきれず裏返った。
首筋の血管に沿ってヴィルターの唇に嬲られるだけで、肌にひりつくような甘い痛みを感じる。
音たてて皮膚を吸われ、嬌声が漏れた。
「ヴィル……もっと、痕をつけてくれ。お前のものって、証を……」
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