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「愛」のおもいで(9)

「弟を閉じ込めるなら、昔かくれんぼしたあの屋根裏部屋だと思ったから、こっそりレオの家に戻ったんだ。弟を連れ出して、二人を逃がしてやった」  ──すまなかった。こんなことになるなんて思わなかった。 「あ、ああ……」  瑠璃色の眸が泳ぐ。  親友の思わぬ告白に、レオンハルトは動揺していた。  閉じ込められたエドガーが勝手に逃げ出したのだと思っていたのだ。  まさかヴィルターに脱走を手引きされていたなんて。  その結果、エドガーは悲劇に見舞われた。  すべてこの男のせいだというのか。 「それは、ヴィル……あっ」  言葉を遮るように、後孔からとろりと精が溢れ出た。  ぬるぬるした液体が敏感なところをなぞり、垂れていく。  今まで繋がっていたところが急に寂しく感じられて、レオンハルトはヴィルターの首筋に顔を埋めた。  椅子に腰かけた彼の上に跨ったままだ。  またいつでも繋がれる。 「ヴィルのせいじゃない。俺たちの敵は国王と、エドガーを殺したダグという奴だ」  もしも許さないなんて言ったなら、ヴィルターは去ってしまうだろう。  そんなこと、耐えられない。 「ごめんな、レオ。その代わり、おれがずっとレオの側にいるよ」  冷たい手が髪を、頬を、首を撫でる。  こくりと頷き、レオンハルトは男の愛撫に身をゆだねた。 「今度はベッドに行こうか、レオ」 「そうだな」  物憂げに身体を起こし、手を取り合ったときだ。 「これは? 持っていくか?」  何気ない問いかけに、レオンハルトは息を呑んだ。  食卓の上に所在なさげに置かれているのは、懐かしい木箱──エドガーの形見である。  そうだ、ばあやのスープを飲みながら中を見ようと思って持ってきたのだ。  それを忘れて親友との行為に溺れていたことが、急に後ろめたく感じられた。 「お、俺が開ける」  無造作に手を伸ばすヴィルターに先んじるように木箱を抱える。  じいやが僅かな時間で作ってくれた手製の入れ物だ。  蓋は簡単に開いた。  幼いころ、エドガーと一緒に焼き菓子を隠した思い出が蘇る。  もちろん、そこにあったのは菓子ではない。  剣と楯を意匠にしたブローチや、じいやが作ってくれた小さな木彫りの動物の置き物が入っている。  おもちゃのようなものだ。  十八歳の男の持ちものではない。 「エドガー……」  ブローチを取るレオンハルトの手は震えていた。  それは、いつかの誕生日にレオンハルトが小遣いをはたいて弟に買ってやったものだったのだ。 「あいつ、こんなものをまだ持って……」  子どもっぽすぎて、装飾品として使うことはなかったのだろう。  だが、この木箱に入れて大切にしていてくれたのだと思うと、視界が霞んだ。  鼻をすするレオンハルトを、背後からヴィルターが抱きしめる。  親友がどんな顔をしているかは分からなかったが、肩を抱く手はすこし痛い。 「レオ、これは?」  つと──その手が伸びた。  箱の中に残されていた小さなものをヴィルターがつまむ。

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