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荒れ狂う緋(3)
※ ※ ※
次に目が覚めたとき、レオンハルトを包んでいたのは夕陽の緋でも、血の緋でもなかった。
暗い色をした緋色の髪。
それが見た目より固いことは、触れなくとももう知っている。
「兄妹で、髪の色が随分違うんだな……」
小さな囁きに、枕元に座っていた青年が弾かれたように顔をあげた。
「レオ、痛むか? 水を飲むか? 起きあがれそうか?」
矢継ぎ早な問いかけに、まばたきを繰り返しながらもレオンハルトは苦笑した。
いつから付いていてくれたのだろう。
ヴィルターの表情には疲れがみえる。
「大丈夫か、レオ。何で目覚めるなり妹の髪の色なんか……」
背を支えられ寝台に身を起こし、水を口に含んだ。
兄弟ふたりとも赤味がかった髪だが、濃い闇色が勝るヴィルターの色のほうがやはり落ち着く──そう言いたかっただけなのだが。
しかし開口一番、妹とはいえ自分以外の人物の話題がでたとあって、ヴィルターは少々不機嫌そうに顔をしかめていた。
「おれがどれだけ心配したか……」
調べ事をしてから、レオンハルトの家に戻ったら玄関は開いている。
花瓶が割れ、床には血液が飛び散っているではないか。
どう見ても乱闘の跡である。
所在なさげに落ちていた金刺繍の外套に心はざわめく。
国王ルーカスのものだということはすぐに分かったから。
王がレオンハルトを攫ったのか。
ならば、傭兵を集めて王宮に乗りこんでやろうかと考えてシュルツの屋敷へ戻ったところ、妹が別荘に医師を呼んだと聞きピンときたという。
「レオ、傷を見せて」
「医者は大したことないと言っていた」
「いいから見せて」
ヴィルは寝台に膝を乗せ、のしかかるような体勢でレオンハルトを覗き込んだ。
夜着をまくりあげられ、冷やりとした手に触れられるとレオンハルトは吐息をついた。
腹に巻かれた包帯を見下ろし、ヴィルターは苦々しく顔を歪める。
「王と揉めてこのザマだ。心配をかけて悪かったな」
ヴィルターの手がレオンハルトの夜着の裾をそっと整える。
あの男、許さないと小さく呟いた。
傷に触れないようにとの配慮だろう。
レオンハルトの肩に顔を埋め、ヴィルターの声は震えている。
「レオ、まさか自分で刺したんじゃ? その、死ぬつもりで……」
「馬鹿を言うな。刺されてもいないし、自分で刺してもいない。あれは事故だ。揉みあっているうちに……」
語尾は徐々に小さくなり、数瞬間の沈黙に室内は沈む。
窓から射しこむ夕陽の緋が、やけに重い。
レオンハルトは小さく息を吐いた。
呼吸するたびに腹の傷が痛む。
死ぬつもりなんてあるわけない。だが……。
「分からない。でも、もうお前以外の誰にも触れられたくなかったんだ……」
縋るように差しのべた手をヴィルターが包んだ。
指先に触れる唇が、優しくてもどかしい。
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