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荒れ狂う緋(7)

「いっそ傷が開けばいい。そうしたら、どこにも行けなくなるのに……」  殊更にゆっくりとした動作でヴィルターがのしかかってくる。  冷やりとした手が頬に触れ、レオンハルトはビクリと身を震わせた。 「嘘だよ。そんなこと、おれが思うわけないだろ」 「ヴィル? 放してくれ」  聞こえなかったはずはない。  しかしヴィルターの手は、レオンハルトの頬を撫で続ける。  もう片方の手は、器用な動きでシャツのボタンを外していった。 「ヴィル? やめろよ、今は嫌だ……っ」 「うるさい口だな」 「んんっ……」  動けなくなるくらい体重をかけられ、抵抗の言葉も唇で封じられる。  息もできない。  くちゅくちゅと、わざと音をたてて口中を犯された。  舌をねぶり、絡めては吸いあげ、それから上顎をぬるぬると嬲られる。  荒い呼吸音と呻き声が幾重にも重なって響き、レオンハルトの身体から力を奪っていった。 「ヴィル、嫌だ……」 「おれだって優しく抱きたい。こんな欲望に滾った姿なんて、君のきれいな眸に映したくない」  ──でも、無理だ。  低い囁き声。  首筋を、頬を、瞼を。ヴィルターの舌がねっとりと這う。  顔を背け、眸をぎゅっと閉じるレオンハルト。  その睫毛をヴィルターの唇が食むように咥えた。 「いや……だっ……」 「嫌じゃないでしょ。おれたちはもう恋人同士なんだから」  ──つぷり。 「んっ、んんっ……」  いつのまにか、はだけられていた下半身を冷たい手がまさぐる。  敏感になった後孔を刺激するように指が撫でまわした。  戯れるように人差し指が挿り、入り口をなぞったのち抜かれる。  次に侵入してきた中指が、音階を奏でるように不規則な動きで内壁を擦った。 「うんっ……ヴィル……ぅ」  漏れる息は徐々に甘いものへと変じてゆく。 「やだ、ヴィル……んんっ」  身体のこんな処が気持ちいいなんて知らなかった。  後孔にずぷりと指を挿れられて、内部をさんざん弄られたら、腰が熱くなって蕩けそうに揺れるなんて本当に知らなかったのだ。 「うぅ……んっ、やめっ」  それでもうわごとのように繰り返す抵抗の言葉は、レオンハルトに残された意地であったろうか。  この男のせいで、身体をぜんぶ作り変えられてしまった。  でも、絶対に忘れてはならない思いもある。  首から滑り落ち、敷布のうえで光る黄金の指輪を、レオンハルトは握りしめた。  どくどくと激しく刻む鼓動は、己の心臓の音だろうか。  なまめかしく濡れた手が、レオンハルトの手首を押さえつける。  同時に、股の間の敏感な処に圧迫感を覚えた。 「きついな。そろそろおれの形を覚えてよ、レオ」  焦るように性急に、それはレオンハルトの最奥を貫く。 「んっ、んんっ……」  小刻みに腰を揺らされるたびに、背筋を這いあがる震えは快感というものか。  ──嫌だ。こんなふうにされて……感じたくない。  のしかかられ、見下ろされ、身体の一番奥を暴かれるのはいつだって恐ろしい。  小さいころから一緒だったヴィルターだから。  愛していると何度も囁かれ、傷つけないようにと優しく触れてくれたから。  だから身体が蕩けるのだ。  躊躇いや怯えが、心地好い震えに変じるのだ。  こんなふうにされて……。 「レオ、気持ちいい?」 「い……くないっ」 「耳が真っ赤だ。ここも」  戯れるように乳首を指先でくすぐられた。 「あぁっ……んっ」  はしたない嬌声が漏れる。

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