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荒れ狂う緋(8)
「ほら、感じた。レオの内部(ナカ)、おれのをきゅうきゅう締めつけてくる」
額に光る汗を拭ってくれる手つきは、いつものように優しい。
繋がった奥からは、波のように快楽がせり上がってくる。
「ヴィル、ヴィル……ぅ」
無意識にくちづけをせがんでいた。
体中の感覚が鋭敏になっていて、ヴィルターが触れるすべての処がぴくぴくと反応する。
「なぁ、レオ。おれたちが初めて会ったところを覚えてる?」
「はじめて……?」
窓から射しこむ陽射しは徐々に夕陽の緋に染められていく。
木々の向こうにはきらきらと光る水面が見えるだろう。
「湖に小さな島があって。そうだ、小さいレオはオバケが出るって泣いてたな」
可愛いかったな──そう呟きながら執拗に髪を撫でる手。
「復讐なんて忘れて、ふたりきりでそこに行こう。ね」
「ふたり……で?」
身体を嬲られる快楽に霞む視界に、不意に黄金の光が瞬いた。
気付けばヴィルターの手には、心臓のかたちを模した金の指輪が揺れているではないか。
「返せ。それは、エドガーの……」
腰を揺さぶられながら途切れ途切れの言葉に、ヴィルターは怒ったのか。
笑みのように顔を歪めた。
「君の弟が殺されたとき、おれは心のどこかで喜んでたんだ」
「ヴィル?」
「だって、あいつがいなくなれば、レオにはおれしかいなくなる。レオが可哀想でならなかったけど、おれは嬉しかったんだ」
「ヴィル、何言って……?」
指輪に向かって伸ばす手を、ヴィルターの指が握りしめた。
ふにゃりとやわらかな感触。
指先にくちづけの雨。
「これまでは君の望みを叶えてやることが愛だと思ってた。でも、おれには君の弟やお父さんのつまらない名誉も、国王への復讐だってどうでもいいんだ」
くちづけは、手からやがて顔に降る。
「ただレオをこの手にしたい。初めからこうすれば良かったんだ。君を捕らえて……縛り付けたっていい。動けないようにして毎日抱き潰して、おれだけのものに……」
──おれが欲望に狂ったのは……レオ、君のせいだ。
湿り気を帯びた囁きが耳元を覆う。
「なんでそんなこと……」
震える指先が指輪を奪い返そうと宙を薙ぐ。
「もう指輪(これ)はいらないだろ。これはレオを縛るものだ」
「だめだ、返してくれ……」
手をつかまれ、枕の横に押さえつけられる。
瑠璃色の眸からこぼれる涙の痕に執拗に舌を這わすと同時に、腹の奥をぐりぐりとかき回された。
「はぁ……ぁぁんッ、ヴィル……っ」
這いあがる快感に、一瞬前まで何を考えていたか忘れそうになる。
「だめだ、ヴィル……そこはだめ……」
「ん? ここ?」
「んぁっ、んんっ……」
触れられると快感の渦に放り込まれるような箇所が、深い処にはあった。
初めてヴィルターに指を挿れられたとき、この奥に気持ち良くなる場所があると言われたところだ。
ヴィルターの固く屹立したそれなら、指では届かないその場所にだって容易に達するだろう。
「レオの身体と心に、おれという存在を刻みつけたいんだ」
音たてて肌を吸われ、足がびくびく痙攣した。
上体をのけぞらせながら、レオンハルトは親友の首筋にしがみつく。
同時に腹の奥に、ヴィルターの精がじわじわと侵食していった。
ひりつく内部。
熱は誰のものか。
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