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荒れ狂う緋(9)
熱く震える肉壁をこすりながらゆっくりと後退していく肉棒に、レオンハルトは唇を噛みしめた。
いやだ、抜かないでくれ。もっとヴィルのもので俺のナカをグチャグチャにしてくれと──理性を失えばそう叫んでしまいそうだったから。
「レオ、ごめん。こんなふうに無理矢理して……」
徐々に熱が醒めていったのだろう。
冷やりとした手がおずおずと頬に触れた。
拒絶されることを恐れたか、その手は小刻みに震えている。
胸を大きく上下させながら、レオンハルトはヴィルターの手に頬を押しつけた。
「いいよ、ヴィルになら何をされても」
何度も抜き挿しされた後孔が、今さらながらヒリヒリと熱を帯びた。
抜かれてからも入り口ははしたなくひくつき、内部が痙攣しているのが分かる。
今もヴィルターの固くて大きなものが奥へ埋まっているみたいだ。
トロリと虚ろに天井を見つめるレオンハルトの黒髪をヴィルターが撫でる。
いつものように優しい手だ。
「あんなこと言ってごめん。復讐なんて忘れてほしいって言ったのは、レオが心配だっただけなんだ」
「……もういいよ、ちゃんと分かってる。謝るな」
血の色をした緋の眼差しが、情けないことに潤んでいると気付き、レオンハルトの唇が微かに歪んだ。
明らかに安堵した様子で、ヴィルターがレオンハルトの細い肩を抱き寄せる。
「復讐がレオの望みなら、おれが叶えてあげる。だって、レオには無理だろう?」
「なんでそんなことを?」
「ならばレオは王を殺せるか? 奴の心臓に剣を突き立てられるか?」
「で、できるっ……」
「君は非情にはなれない。優しいんだよ。甘いといってもいい」
「そんなことない」
なぜこんなふうに抱きしめながら、人を傷つけるようなことを言うんだと、レオンハルトは顔を歪めた。
その頬をヴィルターの舌が這う。
「レオは何もしなくていい。国王への復讐ならおれにまかせろ。そうだ、妹の首でも王に送りつけてやろうか」
「なにを……」
「妹の首を蝋で装飾して、花と果実で飾りたてるんだ。王の食卓へ送ろう。妹は王の愛人だ。復讐になるだろう」
「よ、よせ。冗談でも悪趣味だ。自分の妹だろ」
「でも、レオを裏切った女だ」
ぴたりと触れ合った肌の冷たさに、レオンハルトは今更ながら慄いた。
「レオ、ごめん。冗談だよ」
「あ、ああ……」
ヴィルターの言葉はひどく軽く聞こえた。
こちらの反応があまり芳しくなかったから、とりあえず謝ったのだと、幼なじみだからこそその心の内が手に取るように分かる。
「レオ、好きだよ」
「あ、ああ……」
ゆっくりと髪を撫でる手のひら。
ヴィルターの瞼が重くなっていくのが分かる。
「どうせなら父を殺したほうが効果的かもしれないな」
「ヴィル? さっきから何を言っている」
「考えてもみろ、レオ。大貴族の父の支持なくして王は権力を保てない。ならば父を殺して、おれが跡を継いで国王の不支持を表明する」
「馬鹿を言うな、ヴィル」
ヴィルターの顔が近付く。
くちづけを受け入れたのは、レオンハルトの心が恐怖に縛られたからかもしれない。
「馬鹿じゃないよ、レオ。君のためなら父も殺すし、妹だって差し出す。おれにとって君がすべてなんだ」
繰り返し嬲られる唇。
ヴィルターの動きが次第に緩慢になっていくのを、レオンハルトはただじっと待った。
「レオ、好きだよ……」
やがて、ヴィルターの瞼が閉じられる。
静かに聞こえるのは寝息だ。
「俺だって好きだよ、ヴィル。でも……」
そっと身を起こすレオンハルト。
その手には、眠るヴィルターから奪い返した指輪がきらめいている。
あんなことを言いながらもレオンハルトの手を縛りもせず、扉に鍵すらかけなかったのは、ヴィルターの甘さだろうか。
それとも、これも彼の優しさなのか?
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