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蜜月は終わった(5)
「レオの内部(ナカ)、痙攣してる」
「やだ。言うな、そんなこと……っ」
可愛いと呟きながらヴィルターの顔が近付いてくる。
奪うように唇を重ねられた。
腹の奥に精が放たれる感覚。
「ヴィ……ルっ……」
身体を貫かれ唇を嬲られながら、レオンハルトは愛おしい男の名を呼んだ。
もう何も考えたくない。
この腕のなかで、重い愛に溺れてしまいたかった。
この男とどこまでも堕ちていくなら、それもいい。
※ ※ ※
愛の営みを繰り返し、ようやく微睡みかけたころには割れた窓の向こうには早朝の色が広がっていた。
徐々に熱気を増す室温。
一人ならじきに耐えられなくなったろう。
「ヴィル……」
だが、今は平気だ。
低体温のヴィルターに抱きしめられて、レオンハルトは数日ぶりに深い眠りに誘われた。
ふと目覚めては睦言を囁き、また微睡む。
それを繰り返してのち、レオンハルトの意識が覚醒したときには窓の外は暗くなっていた。
「ん……」
目をこすりながら身体を起こし、腰のだるさに苦笑いを浮かべる。
隣りにヴィルターはもういなかった。
食事でも作ってくれているのだろうか。
寝台脇の小卓に置かれていたガウンを羽織って立ち上がる。
夕べ脱ぎ散らかした衣服もきれいに畳んであった。
ヴィルターのおかげだろう。
昨日まで混乱を極めていた頭の中が随分とすっきりしている。
台所へ向かいながら、レオンハルトは夕べヴィルターから断片的に聞いたことを整理していた。
ルーカス王が退位すると言い出したらしい。
あのときだけの言い逃れの言葉ではなく本気だったのかと、レオンハルトは正直驚きを禁じ得ない。
王には子がいない。
表立っては血縁者もなく、独裁者だった彼の代わりを担える人物は見当たらなかった。
主権は公会議に移すとの言葉に、王宮は混乱を来しているという。
もちろんこれらのことは公にはされていない。
しかし、大貴族シュルツの息子であるヴィルターは当然知るところとなった。
王は病との噂に尾ひれがついて、子ができぬのは不能だからという話もまことしやかに囁かれているらしい。
これが望んだ結末だったのかと問われればレオンハルトとしては如何とも答え難いのだが、事態は既に自分とはかかわりのないところで動いている。
心の奥がどろりと濁っているのは、別の気がかりがあるせいだ。
「ヴィル、いないのか?」
台所に、求める緋(あか)い影はなかった。
一体どこへ?
もしかしたら自宅に帰ったのだろうか。
聞きたいことが──聞きたくても聞けないことが沢山ある。
レオンハルトは玄関へと向かった。
今さら外を見渡してもヴィルターの姿を見付けられるとは思わなかったけれど。
玄関扉に手をかけたときのこと。
突然、背後から肩をつかまれた。
引き寄せられ、背中から抱きしめられる。
「レオ、どこへ行くんだ?」
ヴィルターである。
強い力で抱きすくめられ息もできない。
「ヴィル、痛い」
「王を追い落としたら、おれはもう用済みか?」
「な、何を言ってるんだ」
──じゃあ、どこへ行くつもりだった?
問われてレオンハルトは唇を噛む。
ヴィルターの緋色の目は完全に据わっている。
お前を探してたんだと言ったところで信じてはくれないだろう。
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