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守りたいものは(2)
「元々、僕は王なんて器じゃなかった。兄さんの代わりに王の代理をしていたようなものだ。まぁ、急に王位を降りるなんて言い出したからジェローム・シュルツや公会議の連中は泡を食っていたが」
そこで甥の黒髪にぽんと手を乗せる。
「おまえが僕の跡を継いでくれたら良かったが……」
「ご冗談を」
この男が自分の叔父など、今もって信じられないのだ。
そっけない物言いに口ごもるルーカス。
己の行動を顧みればレオンハルトの態度が冷たいなどと言うことはできない。
「……僕にはもう力はない。でも、愛する兄さんの代わりにおまえを守りたいと。その思いは……信じてほしい」
墓に視線を落とすルーカスを、レオンハルトは横目で見やった。
ヴィルターの存在のおかげで、この男の手の感触など身体から消え失せていた。
許したわけじゃない。本当に何も感じないのだ。
「陛下が本当に私の血縁であるなら……」
いや、違うとレオンハルトは首を振る。
「あんたが本当に俺の叔父だというなら」
──頼みがあると告げる声は、苦痛をともなうかのように掠れていた。
何でも言ってみろというルーカスの視線が心強く思えるほどに、心は不安に沈んでしまう。
「……友人を探してほしい。まだ《王の影》を動かせるんだろ」
「ヴィル……か?」
ルーカスの表情が引きつる。
彼の口からその名が漏れたことに驚き、しかしレオンハルトは答えず俯いた。
この男に抱かれたとき、無意識に親友の名を口にしていたのだろうか。
ヴィルターが消えた。
待っていてもレオンハルトの屋敷には戻ってこない。
自宅はおろか、湖の別荘にもいないらしいとシンシアも言う。
頭を打ったのだから無理をしないよう言うのだが、彼女は聞かず、自宅から呼び寄せた侍女を使ってあちこちを探ってくれた。
そうなるとレオンハルトは彼がどこで何をしているのかまったく見当もつかないのだ。
幼なじみで親友で恋人だなんて言われたのに、なのに自分はヴィルターのことを何ひとつ知らないのだと。
「レオンハルト、おまえの……友人は僕を恨んでいるようだな」
ルーカスの目元が引きつる。
友人というのに、随分と言葉を選んだようだ。
「《王の影》はもうない。僕が解散させた。だが、長のダグだけがおまえの友人を追っている。僕を狙う危険人物だと言って」
ヴィルターが王の寝室に乗りこんだことを思えば、ダグの判断も無理ないこと。
「すぐにやめさせろ。居所だけさぐるよう命令しろ」
その言葉はさぞ冷たく聞こえたことだろう。
レオンハルトの視野の端で、ルーカスが苦々しげに表情を歪めた。
「……言われなくともダグには追跡を止めるよう命じるつもりだ。そもそもその友人とやらはおまえから離れていったんだろう。あえて追わないほうがおまえの未来のためにもいいんじゃないか」
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