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第3話 わかった

「夏彦、キスしよう」 「なっ……何の話だ、急に」  ポカンと夏彦が呆けた顔をする。  体力測定の話など関係なしに突然俺が盛り出したのだ。  当然のことだった。  しかし俺も我慢の限界だった。  子供の頃は片思いだからと言って何かできるわけでもなく。中学に入ってからは、中学生が小学生に手を出すなんてヤバいだろうと、高校に入ってからも同じことの繰り返しで、高校生が中学生に手を出すわけにはいかないと我慢した。  夏彦が高1になってうちの学校に入ってきて、俺は高3。  やっとお互いが、大人にはなりきれずとも大人の階段を上り始めたのだ。 「なあ、ナツ」  俺は昔呼んでいた愛称で夏彦を呼ぶ。  夏彦は吸い込まれるように俺の瞳を見つめていた。  夏彦は、俺の頼みを断らない。  使用人一族として、俺の半歩後ろをいつも付き従ってきて、そういう風にできているのだ。 「久世は」  黙っていた夏彦が口を開く。 「俺のことをどうしたいんだ。俺達は恋人じゃない」 「ハァ?」  俺は夏彦がそんなことを考えていたことに驚いた。  しかし、今までの俺の片想いは、夏彦に感付かれていたかもしれない。  夏彦がこんなことを言い出すということは、今まで俺が夏彦に対して恋人みたいにしたいと考えていたことがバレているからかもしれなかった。 「ああ?お前は、俺のもんだろ」  それでも俺は、押し通す。  なぜなら俺達は子供の頃からずっと一緒で、これからもずっと一緒だからだ。  夏彦は天野の家の人間だ。ということは、将来久世の当主になる俺のもんだろう。  ベッドに座っている俺に、腰を折った夏彦の顔が近付いてくる。  吸い付くように、そっと触れるだけのキスをした。 「……幼馴染でいられなくなるぞ」  夏彦が低い声で呟く。 「いられなくしてんだよ。ナツ。……な?」  今度は夏彦の顎を固定して顔を近付ける。  夏彦は一瞬戸惑った後、ちゅっ……と軽く俺に口付けた。 「ナツ、もっと。キス」  夏彦がちゅっ、ちゅっと何度も口付ける。  いつもはきはきでかい声でしゃべるのに、今度は弱弱しく吐き出した。 「……こんなことさせられたら、好きになる……」  嫌いになる、じゃねえんだ。  いつもはあって無いような上下関係を見せて、半分無理チュー。本気で幼馴染のままでいたかったらぶっ叩いて俺のこと嫌いになるって言えばいいのに、こいつはそうじゃないらしい。 「ナツ」 「……」 「俺のこと、好きだろ。これで俺達は恋人同士だ」 「わ、かった」  こくりと夏彦が頷く。  俺は夏彦の頭をわしゃわしゃと撫でた。  夏彦は心ここにあらずという感じで、呆然としていた。

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