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第10話 本

「期末テストだぞ!久世!」 「またテストかよ……やってらんね」  今日も夏彦は元気いっぱいである。  いつもなら部屋に上がり込めばヤるのだが、テストに燃えている夏彦の邪魔はできない。 「つーかお前、もうすぐ誕生日だろ」 「よく覚えていたな!」 「毎年祝ってんだろうが」  夏彦の誕生日は7月7日、七夕だ。だから名前が夏彦。  ちなみに俺の誕生日は2月14日、バレンタイン。名前には何の関係もない。  俺は夏彦の誕生日に、身に着ける物をやるのが好きだ。  去年は時計、一昨年はハンカチ、その前は家の鍵に付けるレザーのキーホルダー。  律儀な夏彦はそれらを全て愛用している。俺のやったものが夏彦の一部となっているのだ。 「今年はデートだな」 「デ!?」 「付き合ってんだろうが」 「あ……ああ。そうだな」  夏彦の目がわかりやすく泳ぐ。  こいつは別に、初心(うぶ)なわけじゃない。  中学の頃にセックスまではしていないだろう彼女が何人かいたのを知っているし、キスやデートぐらいは経験があるだろう。  俺とはずっと一緒にいた分、デートとは言わずとも一緒に出掛けるのは当たり前だし、今まで当たり前だったことに名前が付くのが恥ずかしいのだろう。 「それより今はテスト勉強だ!期末は範囲が広いから早めに勉強しておきたい!」  そう言ってカバンからドサッと教科書を一気に取り出した際に、夏彦は表紙が鮮やかな本を落とした。落ちた本を俺が拾って夏彦に渡そうとして…… 「おいコレ落とし……」 「!!」  バッと取り返そうとする夏彦。  それを避けて本を死守する俺。  タイトルは細い線で表紙にまんべんなく散らばっているのでわからないが、帯に本の内容が要約して書いてある。 『身分差恋愛♥ご主人様との主従ラブ♥エッチなお仕置きでいっぱい愛して♥』 「主従……!?ご主人様……!?お前これどうした」 「返せ!!」 「だから何?コレ」 「久世!返せ!っ優雅!!」 「身分差とか?お前、こういうのが好きなの?」 「違うっ」 「何がちげーんだよ」  身分差とか、主従とか。俺達は幼馴染なのでそんな壁は殆ど無いが、よもや俺達の関係を表しているようなものでもある。天野は久世に代々仕える一族だからだ。  立って俺から本を取り上げようとしてきたので手を上げたまま俺も立って、ベッドの上まで登る。  取り返そうと躍起になった夏彦もベッドの上に登ってくる。本に手が届かない夏彦は必死で俺に縋りつく。  夏彦は背が高いが、確か177㎝だったはずだ。  俺は181㎝あるので、一緒に立つと当然、少しの差だが俺が勝つ。  夏彦は顔を真っ赤にして、若干泣きそうになっている。 「優雅……」  こいつが俺の名前を呼ぶのは、本気で訴えている時と、セックスするときだけ。  泣かれても困るので本を返してやり、後ろから羽交い絞めするようにぎゅっと抱きしめた。 「夏彦君?これ、どーったの?エッチなお仕置き、されたかったの?」 「ち、違っ……」 「じゃ、何でそんなもん持ってんの?」 「借りただけだ……」 「なんで借りたの?」

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