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第11話 予行演習

「……」 「ん?言ってみ」 「よ、予行演習……」  予行演習!?!?  え!?!? 「ちょっと待て。その本、もっかい見せてみろ」 「い、嫌だ」 「見なきゃわかんねーだろ。お前が期待してるようなこと、俺がやってやれるかアヤシイ。つーかあんましハード系のは可哀想だからナシだぞ」 「そ、そんなの載ってないっ!見るな!」 「帯に書いてあんだから載ってんだろ。俺はお前のご主人様にはなれるかもしれんがお仕置きエッチなんてやったこともねーだろ」  カッと赤かった夏彦の顔が更に赤くなる。  しかし言うべきことは言っておかなければならない。 正直言うと随分難易度の高い期待をされている。俺は夏彦に性的な機能をする道具を使うことはあるが、SMの癖は無いし、お仕置きというほどガン責めして夏彦が気を失ったりしたら俺が焦ると思う。  何かしらお仕置きするようなことがあれば怒りはするかもしれないが、お仕置き「エッチ」となると話は変わってくるだろう。 「ナツ……お前Mだったの?」 「そんなわけあるか!」 「ゴフッ」  振り返った夏彦にドッと腹を渾身の力で殴られる。 「いや……まぁいいや……俺、お前の期待に応えられるように頑張るわ……」 「応えなくていい!!お前は何か勘違いしている!これはただ……ただ借りただけで!!」 「予行演習つったじゃん……つーかその本、誰に借りたの?」 「……クラスの女子だ」 「女子て。お前、女には性欲無さそうとか思われてんだろうに、そんな本よく借りれたな」 「性っ……!?変態!!」  今度はパンッと横っ面を張られた。  しかも変態はどっちかっつーとそんな本を持っているお前の方である。  男の全力の殴りと張り手なので俺はもう満身創痍だが、話を聞いてやる。 「これは……お前の話をしたら、女子が……予習するのにいい本があるって貸してくれただけで……俺が望んで借りたわけでは……」 「俺の話?」 「か……彼氏の……話……」  また、夏彦が顔を赤くする。  つまりこいつ、クラスメイトの前で俺の話を惚気(のろけ)ていたってことか。  しかも主従とか身分差とか、間違ってはいないがギリギリすれ違ってるようなラインの関係まで把握されているということだろう。  いつもの調子だとコイバナなんて一生しそうもない雰囲気でいるだけに若干驚く。 「お前、クラスでそんな話するんだ」 「流れで一度だけ、話しただけだ。知っている人は少ないし、これからもしない」 「だろうな。お前がそんな話してんの、想像つかねーわ」 「……だからこの本のことは忘れろ」 「……。ま、誕生日楽しみにしとけ」 「なぜ誕生日の話になるんだ!何をする気だ!」 「心配しなくてもお仕置きエッチは当分ねーよ。お仕置きされるようなこと、お前はしねーだろ。フツーに祝ってやるから。な」 「……」 「ガッカリした?」 「してない!」  俺はこの本についてもっとよく知りたかったが、せっかく涙が引っ込んだ夏彦をまた泣かせるのも忍びない。  しょうがないので身分差恋愛や主従恋愛、お仕置きエッチについては自分で調べることにし、この本のことは心の奥底へ闇へと葬った。

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