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第19話 当たり前

 夏彦は、ポカンとしていた。 「……俺は、お前と結婚するのか?」  そう聞かれたので、 「するだろ、当たり前」  と返す。 「わ、わかった」  夏彦は頬をほんのり赤く染めた。 「……ありかとう」  こいつはこんなに優しげな顔ができたのか。そう思うくらいに柔らかい表情をした夏彦が俺を見る。  俺は夏彦の顎を掬って口付けた。  唇を割り開いて舌を侵入させ、ぬるぬると絡ませ合う。 「っは……」  息を詰める夏彦の顔を両手で持ってすりすりと撫でる。  夏彦の身体から力が抜けた。  暫くそうして舌を舐めてなぞり合って、上顎にも舌を擦り付けて、唇を食べ合うようにしてキスをする。 ちゅっと音を立てて口と口を離した。 「よし、メシ食い行くぞ」  俺は夏彦の腕を持って立ち上がった。釣られて夏彦も立ち上がる。  予約したのは久世の家も天野の家もよく行くコース料理の店だ。一般的な価格設定とは外れているのかもしれないが、よく行く場所の方が良い。  何より当たり前に行きつけだった場所が俺のせいで夏彦にとって特別な思い出に塗り替えられるというのが燃える。ヤるときに寝室でなくリビングとかで致したらその後リビングに居る時にその時のことを思い出してしまうのと一緒である。今後あの店に行くたびに俺と誕生日を過ごしたことを思い出して照れれば良い。  店に着くとウェイトレスが席に通す。 「いつも来ているところなのに、違う場所みたいだ」  夏彦が楽し気に言う。 「デートだから?」 「デートだからだ!」  俺が聞くと、またも楽しげな声が帰ってくる。  そうか。そんなに楽しみだったか。  俺の下心など全く通用していないようである。  前菜のサラダが運ばれてきて、夏彦が思い出したように言う。 「そうだ、俺最近朝はササミのサラダを食うことにしているんだ」 「へー。ダイエット?」 「そうだ!」 「ダイエットっつってもお前太ってねえじゃん。筋肉も付いてるし」  夏彦の身体はいわば細マッチョという奴である。しかし細マッチョというほどマッチョでもない。もうちょっとスリムというか、腹筋は薄く割れているが、滑らかに隆起する腕も胸筋も過剰にデコボコしているわけでないし、背中も太もももふくらはぎもしなやかな筋肉が程よくついている。まあどう見ても太ってはいない。筋肉の筋がエロいなというような身体だ。それも着痩せするから外目にはわからない。 「痩せようというわけではない。この体型をキープしようとしているだけだ」 「ふーん。なんで?」 「そ、その……」 「ん?」 「抱き心地が、悪くなったら困ると思って……」 「お前は天才。最高だから多少太っても良いし何も気にすんな」  俺は真顔で言い放った。 「て、天……?何の話だ」 「抱き心地?確かにいいよ。お前エロいし身体やらけーし筋肉ダルマでもねえから触り心地良いしな」 「そ、そうか」 「まぁ筋トレはするんだろうからそれは応援してやるよ。この料理もどうせ筋肉になるんだろ」  俺は運ばれてきた料理に手を付ける。 「ああ!好き嫌いなく食べればきっと体の栄養になる!食事は体の資本だな!」  夏彦はにこにこと美味そうに料理を頬張る。

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