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第20話 誕生日おめでとう

 夏彦は自分のことを、本気で好き嫌いの無い人間だと思っている。  俺の家は当然住み込みのお手伝いさんが料理を出してくれるし、天野の家も久世の使用人一族とはいえ数多の生徒たちを抱える天野流の総本家。通いでお手伝いさんがいる。  幼稚舎から中学まで俺達はエスカレーター式の同じ、いわゆる金持ち学校に通っていて、そこで出される食事は手間暇かかったものばかりだった。  嫌いになるような食べ物を不味いと思うような料理で出されたことが無いから食えるだけなのだが、本人はそれに気が付いていない。  現に今食べている料理だって肉に何かの野菜のペーストが乗っているものだが、野菜にしてもそんな手間のかかった料理しか夏彦は食ったことが無いのだ。  しかしそれに気付かないところが単純で可愛いと思う。 「ああ。食え。食ってもっとエロくなれ」 「それは難しい注文だな。どうすればなれるのかわからない」  俺達はスープも飲みほし、デザートも食って席を立った。  会計を済ませる俺の後ろで夏彦が待っている。 「美味かった。久世、ごちそうさま」 「はいよ」  俺は店を出た後、明日の夏彦の朝ご飯を買って、家に帰さずに自室へ連れ込む。  俺の家にはもう、夏彦用のカミソリも歯ブラシもお揃いのマグカップもパジャマも揃っている。制服だけは、カッターシャツは俺のを着させる。彼シャツって奴。  代わりばんこに風呂に入って、パジャマに着替えた夏彦の身体をベッドの中でまさぐる。胸、太もも、下腹……背後から際どいところを揉んでは撫でまわす。 「ぁっ……するのか?」  小さく喘いだ夏彦の乳首をくにくにと弄りながら、「いいや?」と返事する。 「もっ……胸、嫌だ……」 「ん……ゴメンな。期待した?」 「っ……!してなっ……」  振り向いた夏彦の唇にちゅっとキスをする。 「誕生日、おめでとう」  そう言って夏彦を抱きしめる。  本音を言うと、このまま滅茶苦茶に抱いてやりたい。俺の愛に溺れた記憶が来年も再来年も蘇るような経験になればいい。というのは俺の勝手な願望で。  本当の本当は、一年に一回の誕生日。夏彦にとって、甘くて暖かい記憶だけ残ればいいと思う。 「はは……ありがとう」  こっちを向いた夏彦がぎゅっと抱きしめ返してくる。 「おやすみ……夏彦」 「ん……おやす、み……」  抱き込んだまま頭を撫でると、そのまま夏彦はスコンと寝落ちした。

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