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第23話 今忙しいの?
古賀は俺達が課題を広げていたテーブルに菓子折りを置くと、箱を開けた。
「風巻先輩は締め切りに合わせてしか行動しないみたいなんで……。俺は普段から描いてる漫画を締め切り前に仕上げして出すだけだからそんなに切羽詰まってません」
「すげえな、お前。世の中の締め切り間近の大人全員がお前を尊敬するぞ」
俺は素直に古賀を褒めた。
俺も夏彦に面倒見てもらってやっと勉強をしている身分なので風巻のことを偉そうに言いえないが、後輩の方がよほどしっかりしている。
「ていうか学校単位で同一サークルとして活動してんだから風巻先輩みたいにギリギリに原稿上げられちゃ一緒に紙面作るこっちがひやひやするんですよね」
「どういつさーくる?しめんってなんだ」
「古賀と風巻先輩は同じグループで活動しているんだそうだ。一つの本を複数人で作るんだ」
夏彦が俺に解説する。
「夏彦、何でそんなに詳しいんだ」
「俺は古賀に過去の漫研の同人誌を見せてもらっている」
「同人誌ってなんだ」
「合作の本だ」
「へー。で、忙しいはずなのに余裕をもって行動している古賀のせいで俺達のセックスが邪魔されたというわけね」
「セッ……」
夏彦が俺を睨み、古賀は俺達から目を逸らす。
「つーかなんでお前、この家の場所知ってんだ。1学期からずっと俺は夏彦の部屋に入り浸ってたけど他人が入ってる気配なんか無かったぞ」
「は、はい。だから今日が初めてで……」
「……チッ」
舌打ちをする俺を夏彦がはたき、古賀はびくっと反応する。
「古賀。ちょうど課題が終わるところだったんだ。飲み物を持ってくる。ゲームでもするか。テキトーに本棚からソフト選んでくれ」
そう言って夏彦が部屋を出て行く。
「……帰れとは言わねぇよ。だが多少の俺と夏彦のスキンシップは見過ごせ」
「久世先輩と天野のっていうか久世先輩の一方的なスキンシップですよねあべし!」
俺は古賀にベッドの上に置いてあった枕を投げつけた。
昨日夏彦が顔をうずめて喘いでいた枕だ。
古賀の顔面にヒットした後はきっちり回収する。
「ハァー。つーか古賀がそんなに余裕なら風巻も多少は余裕あるはずだろ」
俺は携帯を弄って風巻を電話で呼び出す。
『なんだ』
「お前今忙しいの?」
『ハァ?んだ急に。狩りに採掘に大忙しだっつーの』
「暇じゃねーか!」
こいつ、明らかにゲームしてやがる。
「おいおい漫研部員さんよ、締め切りはどうしたよ」
『締め切りまでまだあと一週間弱あるからペン入れは後に回すことにしたの!俺はぎりぎりにならないとやらない!絶対にだ!』
「それは一週間弱でできる作業なのか?俺には関係ねえけど怠惰だな……」
『で?なんだよ』
「ああ、夏彦の家に古賀が来てんだよ。どうせ二人きりになれねーならお前誘うかと思って。できればそのまま古賀をどっかに連れ出して欲しい」
『あいにく俺は今忙』
「住所送るから来いよ、じゃあな」
ブツッと電話を切った俺は風巻にこの家の住所を送り付ける。
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