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第24話 無理です!

 話を聞いていた古賀からのジトッとした視線を感じるが、俺は無視した。 「……久世先輩、俺帰りませんよ。風巻先輩に連れ出される気も無いですし」 「……風巻は今風呂にも入ってないだろうからここに来るまでに1時間はかかるだろ」 「話聞いてます?」 「お前案外図太いな」 「ハイ。久世先輩は人の話聞かないパワハラ上司みたいですよね」 「気に食わねー!!」 「ぎゃははは!」  のたうつ俺と笑う古賀。  そこに夏彦が盆にペットボトルとグラスを乗せてやってきた。 「天野。久世先輩が風巻先輩呼んだから一人増えるぞ」  古賀が余計なことを言う。 「そうなのか?じゃあグラスもう一つ持ってこないと」 「別に良いだろ。あいつはペットボトル一気で」 「風巻先輩一人にどれだけ飲ませるつもりなんだ!」  しかし夏彦はそのままスッと座る。  なんだかんだ言って俺の言うことは聞く奴なのだ。  古賀が「それよかさ」とバックパックから何かを取り出す。 「お前このハードだったらこれできるだろ。一緒にやろうぜ」 「なんだこれは」  本棚に並んでいる戦闘ゲームとはだいぶ様子が違うキャラクターたちが並んでいるパッケージのゲームソフトを古賀が持ってきたようだった。  夏彦が古賀の手元を覗き込む。 「これ、先週発売された乙女ゲーム『無理です!そんな恋は始まりません!』なんだけど攻略対象も少なめだしちょっと遊ぶのにいいかなと思ってさ。あっ、久世先輩は無理恋知ってます?これ攻略対象が主人公の身内周辺の人物が多くてなのに生徒会とか出てきちゃうんで結構アツいんですよ。悪役のいじめとかも無くてその代わり嫉妬した別の攻略対象が割り込んでくるんですけど主人公的にはどっちを選んでも無理な」 「黙れ」 「ハイ」  夏彦が古賀からソフトを受け取りゲーム機にセットする。 「結局このゲームは何をするゲームなんだ?」 「男と恋愛するんだよ」 「ハァ!?」  夏彦が叫ぶ。 「いや乙女ゲーってそういうもんだし。ギャルゲーの反対だよ」 「ギャルゲーってなんだ」 「女キャラと恋愛するゲーム」 「お、俺は久世がいるから他の男と恋愛なんてしなくていい」 「難しく考えんなって。二次元だぜ」 「……夏彦が男落とそうとしてる様子なんて黙って見とけるわけねえだろ!!」 「ほげっ」  俺のキックでドッと古賀が倒れた。 「古賀ァ!大丈夫か!」 「俺は大丈夫……だからゲームのスタートボタンを……押すんだ……」 「古賀あああ!!」  以上、夏彦と古賀による茶番である。 「つーかほんとにやんのかよ……。俺、夏彦が俺以外の奴に靡いてるのなんて見たら発狂するんだけど」 「俺は、久世以外に好きな奴なんてできないって」 「ホラ天野、二次元のキャラなんだから彼氏とは別腹!久世先輩もやってみたらハマるキャラいるかもしれませんし~」 「まぁそうか……。ったくしゃーねーな」 「と言いながらコントローラー取ってやる気満々じゃないですか!」  かくして俺達は「無理です!そんな恋は始まりません!」を開始した。

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