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第29話 りんご飴
「可愛いな~……」
「お前の目にはそう映ってるわけね」
思わず口から本心が漏れる俺を鼻で笑う風巻。
ムカつくが可愛いと思っているのは本当なので何も言い返せない。
夏彦は可愛い。
それは見た目の話じゃない。どちらかと言えば男らしいタイプだし。背もでかい。
ただただ今日みたいに無邪気に遊ぶ姿や、古賀に負けてへこんでるところ、普段は着ない浴衣を着てはしゃいでいる姿が可愛いのだ。
「風巻、俺かき氷食いたい」
「買って来いよ。ここで古賀と天野待っといてやる」
「ヤッター」
俺は一人でかき氷の屋台に並ぶ。普通のかき氷と違って、ミルクかき氷というのが売っているらしい。マンゴーソースで味付けされたものを受け取り、お金を払う。
「夏彦と古賀は?」
風巻の所に戻ると、まだ二人は帰ってきていないようだった。
「天野にメッセ送ってクレープ買ってきてもらってる。俺が食う」
「なんだ。じゃ俺は先に食うぞ」
一人でかき氷を先に食べ始める。
練乳風味の氷が解けて、冷たい。
マンゴーソースとミルク氷がよく合う。
「風巻先輩」
二人が片手にりんご飴を手に、夏彦はもう片手にクレープを持って帰ってきた。
「クレープ、何でもよかったんですよね?チョコバナナクレープにしときました」
「ありがとな」
「お前らはりんご飴、お揃いなの?」
「ああ。どうせなら同じもの食べてみたくて」
夏彦が風巻からクレープ代を受け取る。
風巻はクレープの一口と思えないぐらい大口でクレープに齧りついた。
古賀が固いはずのりんご飴をバリムシャアと器用に食べる。
夏彦は慣れていないからかぺろぺろと外側の飴を舐めた。
「夏彦、かき氷ちょっといるか?」
「ああ。ありがとう」
意外にも美味かったミルク氷を夏彦に分け与える。
「冷たい……美味いな」
「な。そういやかき氷なんて久しくやってねえ」
「そうだな。来てよかったじゃないか」
かき氷を食べながら微笑む夏彦のりんご飴を持ってやりながら、俺も頬が緩む。
「ゴミ箱があるうちに食べて行こうぜ。りんご飴、食えるか?」
さっさとクレープを食べ終えた風巻が屋台の側に設置されているゴミ箱を見ながら言う。
「俺はもう食べれます」
古賀が齧り付いていたりんご飴をパキパキと割りながら林檎を食う。
「これ……どうやって食うんだ」
夏彦は、林檎をコーティングしているべっこう飴が固くて食べられない。
俺はかき氷を夏彦から受け取りりんご飴を返す。
古賀が夏彦のりんご飴を持った。
「ここ、俺が食うからこの淵から林檎食え。どっか一か所食えばあとは飴が割れるから」
「ありがとう、古賀」
夏彦のりんご飴をガリっと古賀が齧る。
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