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第30話 花火

 林檎を丸々一個食べたところなのに元気な奴である。  古賀の真似をして夏彦もりんご飴を食べていく。  俺は溶けだしたかき氷の残りをかき込み、溶けた分はジュースのように飲みほした。  俺は夏彦がりんご飴を食べるのを動画に撮りながら話しかける。 「夏彦君。りんご飴、どうですか?」 「ん……甘いな」 「大きい林檎ですね~」  シャクシャクと林檎を食べながら夏彦が頷く。 「外側の飴、舐めてみて」 「……?」  れろっと夏彦が素直に飴を舐めあげる。 「エロッ……」 「天野、イラついたら抵抗していいんだぞ」  余計なことを言う風巻を無視して「もう一回舐めてみて」とリクエストする。 「久世……!」  怒った様子の夏彦がこちらを睨みながらガブッと林檎に齧りついた。良い表情である。  無事に全員食べ終わり、ゴミ箱に立ち寄った俺達は花火を見に行く人ごみに紛れ込む。  俺は夏彦と手を繋いで、古賀と風巻について行く。  道の真ん中じゃ危ないので、どこか座れる場所を見つけたいが、ベンチや芝生の上は人でいっぱいだ。 「もうすぐだな」  風巻が時計を確認する。つられて俺も確認する。  18時57分。19時から花火大会だ。 「あ、あそこ座ろうぜ」  道端の腰くらいの高さで段になっている場所を見つける。  上には芝生が広がっていて人が沢山場所取りに座っていたが、端の段には人が少ない。ちょうど空いていたスペースに俺達は収まった。  古賀、風巻、夏彦、俺の順番に並んで座る。 『まもなく花火大会が始まります。交通整備にご協力願います』 『まもなく花火大会が始まります。危険ですので道で止まらないようお願いいたします』  交通整備の人たちのアナウンスが響く。  ヒュルルル……と音がして、ドンッ!と爆音が空に響く。  花火大会が始まった。  ドン!ドン!と大きな花形の花火がいくつも打ちあがり、シャワワ……と柳形の花火が流れる。 「凄いな、久世!」  夏彦が楽しそうにこちらを見る。  俺はこちらを向いたその顔の、唇にちゅっとキスを落とした。  ドンッ!ドンッ!と心臓に響く花火の音が止まらない。  心臓に響く爆音でドクドクと胸が高鳴る。 「久世」  今度は夏彦が、俺に首を伸ばして口付けた。  そして夏彦はニッと笑う。 「綺麗だな」 「ああ。夏彦、来てよかったか?」 「勿論だ」  鳴り響く花火の爆音と空に広がる花火の間で、俺達は笑ってもう一度キスをした。

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