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第37話 純粋培養
「お疲れー」
風巻がジェットコースターのスタート地点で上からこちらを見て笑っている。
ジェットコースターから降りるとぐったりとした俺に夏彦がぴっとりとくっついてきて「……どうだった?」と上目遣いに聞いてくる。
「……すげえな、今年の一年……」
かろじて、俺はそう発した。
夏彦の表情がパァァと明るくなる。怖かったので別に褒めていないが、夏彦の機嫌が良くなったので良しとしよう。
風巻が俺に続いて例のごとくフゥー!という歓声に包まれながら両手を上げてジェットコースターを滑り落ちてきた。
「超楽しいじゃん!」
「すげえな、お前……」
俺はヨボヨボと歩きながら風巻について行く。
「そういや古賀と天野は今日どうすんだ。俺と久世は適当に見て回って漫研顔出したら終わりだけど」
風巻が夏彦と古賀に聞く。
「このクラス、教室に残ってる奴多くねーか」
俺は思ったことを言う。
俺らのクラスなんてジャン負けした奴が店番でそれ以外の奴らは全員フリーなのに、夏彦と古賀のクラスは殆どの奴が残ってジェットコースターハイになっているように見える。自分たちが乗っているわけでもないのに毎回フゥー!と盛り上がっているのだ。
「初めてこんな大掛かりな物作りをしたんだ。自分たちで何回も試し乗りしたし、楽しいんだ」
夏彦がそう答えた。
「俺達の中学だったら、高校入っても業者頼みだったろうしな。自分たちで作るって、スゲーよな」
俺は夏彦に言う。
「ああ!生まれて初めての経験だった!久世は凄いな。こんなことができるってわかっててこの学校に来たのか?」
「いいや。ただの反抗期。でも楽しかったろ?」
「なんだそれは。でも、楽しいぞ!」
夏彦が心底楽しそうに笑う。
俺と同じ、ボンボン学校からやってきた夏彦。しかも一年目がこんな大変な出し物。
元の学校にそのまま内部進学してりゃもっと凄いもんが作れてたはずだ。業者に依頼するんだから、当然だ。
それでも、こういう体験を夏彦にしてもらえるのはこの道を選んだ俺には嬉しい。
夏彦は純粋培養だ。
まっすぐで、努力を怠らず、外の汚れた世界を知らない。
前の学校のままだったらそういう夏彦のままでいたかもしれない。だけど今、俺と同じ高校に進学した夏彦は、俺と恋人になって、クラスの女子に借りたBL本を読んで、古賀の影響で同人誌に触れたりなんかして、文化祭では自分たちだけで物を作り上げることを知った。
俺が知らないだけで、クラスの奴らや古賀は夏彦の他の顔も知っているのだろう。
高校生。
俺もまだ高校生だが、思春期の夏彦がどんどん変わっていくのがわかる。
色々なことを吸収して、真っ白だった夏彦がいろんな色に染まっていく。
それでもまっすぐなままの夏彦が、俺は愛しいと思う。
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