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第5話
「はい、乳首イキ二回目。ホントちょろいわ」
ベッドに沈み、全身で喘ぎながら、解放された乳首へ視線を向ける。普段鏡の中で見るそれとはまるで違う、真っ赤に熟れて固く勃起した粒が、斉木の呼吸に合わせて忙しなく上下している。自分の身体だというのに、ひどく卑猥なそれを見ていられず、顔を背ける。シーツを握りしめていた指に、血が止まるほど力がこもった。
「藤井、貴様――……!」
「あれ、まだそんな目するの? ま、そういうとこも可愛いですよ」
睨み付けた藤井の顔が、不意にぼやける。眼鏡を取り去られた所為だ。奪い返そうと慌てて伸ばした手は、するり、と優しい手付きで握り込まれた。そのまま滑った指が、手首の内側、薄い皮膚を擽る。
「……っ、…!」
ぞく、とまた甘い戦慄が腰まで落ち、微かに腰が揺れる。
「えっろ。どこ触られても感じまくりじゃないですか」
「何を言っ――、っぁ、やめ…ッ、」
濡れた下着ごとスラックスが引き抜かれる。露わになった斉木の性器は、先刻二回放ったものでべっとりと汚れていた。視界に映ったその有様に、斉木の全身が羞恥で熱くなる。
「うわ、すっげーどろどろ。斉木さん、さっきイったとき、めちゃくちゃ気持ちよかったでしょ」
「ッ、黙れ……!」
「はいはい、黙りませーん」
笑いながら、藤井の手が斉木の尻を撫で上げる。ぐちゅり、と不意に冷たい感触が触れる。
「ッ!」
ローションだった。冷たいぬめりを纏った指が狭間を辿り、後孔をやんわりとなぞった後、つぷりと奥へ沈む。
「――っん、」
喉に絡む声。ひくつく腰の動き。そして何より、飲み込んだ異物をきゅうと締め付ける「なか」。
ぞく、と背筋が震えた。この次の行為が本来の目的だったことを思い出す。
「ホント、身体は素直ですよね、斉木さん」
全身がカッと熱くなる。どうしようもなく欲しがっていることを隠すことなどできない。
「…っふ、っぅ、ッ……」
乱暴に中を抉られているだけなのに、斉木の「なか」が、絡み付くように、悦ぶように、藤井の指を咥え込む。どうしても甘く上擦る声を懸命に喉の奥に押し込めた。
「でもさ、斉木さん、ゴムなんかいらないでしょ?」
「…!?」
愕然と藤井を見上げた。
「どうせこれからは俺以外、もう挿れないんだし」
「な…っ、ふざ、……あ、っ、ひ、ぁ…ッ!」
抵抗の言葉は、またしてもひどく情けない喘ぎにかき消された。
「あー、ほんとエロい。全部バラして回りに見せびらかしたいくらい」
唇に満足げな笑みを浮かべ、藤井は斉木の下肢を大きく開かせた。
「ほら、どっちが管理してんのか、今からたっぷり思い知らせてあげますから」
ぐちゃ、と卑猥な水音が高く響いた。藤井の指が増え、ローションをたっぷりまとって斉木の奥を乱暴に掻き回す。そんなふうに解す手付きなど、今まで誰にも許したことなどないのに。何よりも自分の身体が、その荒い指を悦んでいるのがわかる。
拒絶したいはずなのに、斉木のそこはもう、雄を受け入れるための器官になってしまっていた。
「あ、っ、ひ、ぁ……や、ぁ、っ、あ、っ……!」
漏れる声すら止められない。いや、止める気力すら、もう残っていないのかもしれない。
「ほんっと、エロい身体してますよね、斉木さん。ちょっと弄っただけでもうとろとろですよ」
笑う藤井の声に、着衣を寛げる気配が重なる。つい視線が動く。外気に晒された藤井の性器は、既に完全に漲っていた。これまで毎週、斉木を満足させ続けてきた熱と質量とかたち。小さく咽喉が鳴る。
剥き出しの先端が後孔にひたりと押し当てられる。背筋を震わせるのは恐怖なのか期待なのか、自分でもわからない
「ふ、じ、……い……や、っ……挿、れる、な……!」
命令口調を装った、掠れた懇願。しかし藤井は哀れみすら浮かべて斉木を見下ろした。
「バカですね。そんな命令聞くわけないじゃないですか」
「――ッ!」
息を飲む。次の瞬間への恐怖と期待に、あさましく咽喉が鳴る。
ゆっくりと、熱が入ってくる。ローションのぬめりを帯びた硬い異物が、斉木の内側をこじ開ける。痛みと快楽の区別すらつかない、ぐちゃぐちゃの感覚。何が嫌で、何が気持ちいいのか。もうそんなこともわからない。ただ、身体の奥にある何かを抉られ、意識が白く弾ける。
「あ…、ぁあっ――、……」
今までずっと、挿入の主導権は斉木が握っていた。藤井の上に跨り、自ら後孔を解して受け入れていた時と、行為自体は変わらないはず、なのに。何もかも違う。自分が自分でなくなっていく。契約で守っていたはずの境界線が、跡形もなく消え去っている。
「もう、どっちが上か、ちゃんと教えてやる」
耳元で囁く、低く、酷薄な声音。聞いたことがない響きを帯びた声。有能で従順な仮面の下にあった、もっと暗く深いものを、斉木はようやく理解した——手遅れになってから。
中をいっぱいに埋めていた熱が引き抜かれ、すぐにまた深く穿たれる。
「ああああぁッ……!」
自分のものとは思えない淫らな声が溢れる。それだけで軽い絶頂に達してしまっていた。
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