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第6話
「もうイったの? どんだけ飢えてたんですか」
その言葉と同時に、再び、斉木の内奥を熱が犯す。突き上げられるたび、咥え込んだままのそこがきゅう、と締まる。意思とは無関係に身体が求めてしまう。弱点を知り尽くしている熱に弱い箇所を幾度も突き上げられ、斉木の理性は崩壊寸前だった。
「ふ、ッ、ぁ、っ、や、…ぃやだっ……!」
「いやだ、じゃないでしょ」
抗う声すら、藤井にとっては極上の玩具でしかないのだろう。応える声は笑っている。
腰を抱え込まれる。背筋が跳ねて、反射的に脚が竦む。
「や、やめッ、っ、んぁ…ッ!」
そのまま再び奥まで深々と貫かれ、勃起したままの性器から無様に白濁が漏れた。
「わかってますよ。斉木さんが……俺の、モンになるまで、ちゃんと、好き勝手に、してやりますから」
その宣言通り、藤井は、斉木のぐずぐずに崩れた表情を楽しむように、丁寧に、執拗に、腰を使った。
「あ、ぁ、ッ、ひ、や、ぁっ、ん、ぁ、あ……!」
藤井の腰が、斉木の中を貫くたび、ぐちゅ、ぐちゅ、といやらしい音が部屋に響く。
もう力が入らない。藤井に押さえつけられたまま、喘ぎを堪えようとしても、身体は止まらない。
「あ、ぁ、っ、や、ッ…ふ、じ、い、――ゃ、め……ッ」
「やめないって、何回言わせるんすか」
藤井の声は、もはや支配者であることを隠そうともしていなかった。
顎を掴まれる。無理やり引き上げられた先で、藤井の瞳が底光りするような猛禽の目で斉木を見ていた。
「ほら、俺の顔、ちゃんと見て」
「ひ、ぁ、っ…く、ッ、あ……」
レンズを通さない視界が、涙と汗で更に滲む。
目の前の輪郭のぼやけた男が誰なのか、わかっているはずなのに、どこか現実感が希薄だった。口端から涎が伝う感触すらどこか他人事のように遠い。
許さない。認めない。そんな思考は、藤井に突き上げられるたび、唇から勝手に溢れ出す声に蕩けていく。いまや、シーツを掴む指先だけが斉木に残された唯一の抵抗だった。
「…や、ぁ…ッ――、!」
「もうダメでしょ。ほら、認めろよ」
「ふ、ざ、け、…ッ、ぃや、だ……ッ!」
口ではそう言いながら、斉木の身体は藤井を受け入れて、悦んで絡み付いて締め付けている。
最後の理性の欠片すら砕こうとするかのように、藤井は、わざとぐりぐりと最奥を抉るように突き上げた。
「ッぃ、ゃ……っ、あ、あぅっ…、――ッ」
「いやとか言って、めちゃくちゃ締め付けてくるじゃん。もう限界じゃないすか?」
汗に濡れた声で笑いながら、藤井の掌が斉木の膝裏を掴んだ。身体をふたつに折るように圧し掛かられて息が詰まる――が、それよりも。
瞬間、角度の変わった突き上げが、斉木の内奥をずん、と鋭く抉った。
「あああっ……!」
眩むような快感に、斉木の全身が跳ね上がる。腹に生暖かい白濁が散る。もう透明に近い。
シーツを掴む指先が白み、抗おうとした脚がわずかに痙攣した。
耳元に囁きが落ちる。
「あんたのナカ、びくびくしてる。自分でもわかってるでしょ? 欲しがってるって」
「っ、…知る、か…ッ……、ぁ・あ、っあァ、ッ」
突き上げの衝撃に耐えきれず、指がずるりと滑る。反射的に伸びた手が、縋るように藤井の肩を掴んでしまう。滲む視界の中で、藤井が嗤ったのが見えた気がした。
「や、あァ、あ……っ、ぃや、だっ、あ、ぁ、っ、ひ、…ッ…!」
腰が乱暴に打ちつけられ、何も考えられなくなる。意志とは関係なく、腰が勝手に揺れて藤井を咥え込む。気づけば両手は藤井に縋り付いている。
「出しますよ。――ぜんぶ、俺のものだ」
「ッ、ぃや、っ…、やめろ…っ、ぁ、――ッ、」
叫ぼうとした声は、喉の奥で引き攣れ、吐息と一緒に溢れた。
藤井の熱が奥を突き上げたその瞬間、とうに限界を超えていた身体が勝手に果てた。意識が白く染まる。全身が跳ね、痙攣する。
「――ッあ…、っ――、!」
一瞬遅れて、中にたっぷりと満たされる感触――熱い液体が、斉木の最奥を汚していく。
「……ぅ…っ…、あ…」
藤井のものを咥え込んだまま、勃起しっぱなしの性器から、ほとんど透明の体液がだらしなく溢れている。
明滅した意識が戻ってくる。いつの間にか、圧し掛かる藤井の体温に、縋るように両腕を絡めていた。振り解く気力も体力もない。
「いい子いい子。よくできました」
耳元で囁かれる声は、何かを誤解しそうなほど優しい。言葉の内容よりもその響きで、斉木の身体が弛緩しそうになる。
しかし。藤井の腰が、ごく浅く、ひとつ揺れる。
「ッ、んっ」
結合部から、ぬちゅ、といやらしい音がした。
中にまだ、藤井のものがいる。全然、萎えていない。そうと感じた瞬間、呼応するように、ひく、と小さく腰が揺れた。斉木の内側が勝手にきゅうと締め付ける。炙るような熱。疼き。
「ゃ、っ、ぁ、…、も、ぃや、だ…ッ、ん、っ」
反応してしまうこと自体がたまらなく恥ずかしく情けなく、しかしそれ以上に――快感で、ぞくりと背筋が震える。
もう、限界のはずなのに。なぜ身体ばかりが際限もなく。
「まだですよ。ぜんぶ、壊してあげるから」
耳元で、優しく囁かれる。逃げ道を一切許さない甘い声。
「――!」
また深く貫かれる。声も出なかった。しかし身体は藤井の熱を悦んで跳ね上がった。先刻よりも容赦のない、深く速い律動。
「ッ…ぃやっ――、ゃ、めッ…ッあ、ぁ、むり、っ――あああ、っ…!」
蕩け切った声がだらしなく零れ続ける。自分でも聞いたことがない、甘く淫らな響き。
藤井の手が腰を掴む。熱いその指の強さにすら、卑猥に咽喉が鳴り、蕩け切った声が漏れる。気づけば両足すら藤井の腰へ絡み付いていた。
もう何も考えられない。藤井の熱に犯されるたび、白い快感が視界を塗り潰す。自分が今どこで誰に何をされているのかさえ、曖昧になっていく。
「ほら、ちゃんと俺見て」
前髪を荒く掴まれ、霞む視界がぼやけた輪郭を取り戻した。無理やり向けられた視線の先には藤井の顔がある。笑っていた。心底、楽しそうに。
「サイコー。斉木さんのこの顔、ずっと見たかった」
斉木の唇は、喘ぎとも悲鳴ともつかないかすれ声しか漏らせない。まともな言葉などもう出ない。
「最後、あんたの奥で、きっちりわからせてあげますね」
ぐ、と腰が沈む。今まで以上に深く、強く、一番奥まで打ち込まれる。
「――ッ…!」
何かを拒絶するように叫んだはずなのに、身体は正反対に震え、絶頂の波に飲まれていた。
そして、もう何度吐き出されたか知れない熱がまた中に溢れる。
斉木は自分の内側が、完全に藤井によって塗り替えられたことを、いやでも思い知らされた。
――終わった。何もかも。
闇に飲まれる直前の意識が紡いだ言葉は、絶望なのか、安堵なのか。斉木自身にもわからなかった。
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