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第二章 デート・アンド・ディスカバリー①

 桜の花びらが散り、木々が青々とした葉で満ちるようになった頃、真生が佳嘉と重ねたデートの回数は片手では足りない程度になっていた。  平日の夜に食事を行く約束となれば、その多くは佳嘉の職場近くの繁華街となる。あらぬ誤解を受けないためにも私服姿で待ち合わせ場所に現れるようになった真生は、一見すると時間を持て余す家出少年のようだった。  オーバーサイズのパーカーは真生の小柄さをより引き立たせる。ガードレールに背中を預けスマートフォンに視線を落としていた真生は、受け取った通知を見てパッと顔を上げる。 「佳嘉さん!」  佳嘉から間もなく到着するとの連絡を受けた真生は周囲を行き交う人の中から佳嘉を探す。一般男性としては比較的高身長の部類にあたる佳嘉は人混みの中でも頭ひとつ抜きん出ていて、真生は難なくこちらへ向かってくる佳嘉の姿を見つけることが出来た。  自分はここにいると手を振る真生から声をかけられた佳嘉も、人波をうまくかわして少し早足で真生へと駆け寄る。 「先に着いてたなら、どこか店に入ってろって言っただろう」  真生は佳嘉から心配されることに、少しだけ優越感を抱くようになっていた。佳嘉の心配には一切邪な気持ちがなく、純粋に自分を心配してくれているという感情のみだった。  急いで仕事を終わらせてきたであろう佳嘉の腕へ纏わりつくようにぶら下がる真生は、そんな佳嘉との些細な交流を毎回心待ちにするようになっていた。 「ぼくも今来たばっかだし、すぐに佳嘉さん来るって分かってたんだしさ」  気候は徐々に暖かさを増し、夜であってもそう肌寒さを感じることはない。佳嘉が危惧しているのはそういった意味ではないと分かっていながらも、真生は佳嘉との時間を少しでも大切に過ごしたかった。  合流すれば食事に行くというのに、どこかの店に入ってなにかを食べてしまえば、これから食べるであろうものを存分に楽しめなくもなる。  たかが数分の待ち合わせ誤差のために、飲食もせずに店に入るということはさすがの真生も良心が咎めた。  なにかを言いたいような視線を落とす佳嘉に気付いた真生は、その含まれた意図に皆目見当も付かないふりをしてただ満面の笑顔を浮かべる。 「ん、なに?」 「…………なにが食べたいの?」  それに食事をするのならば一人よりも二人のほうが絶対にいい。最近の真生は佳嘉と食事をするこの時間ばかりを楽しみに毎日を過ごしていた。  なにを食べたいと真生が予めリクエストすることは簡単だったが、佳嘉から聞かれることに意味がある。真生はそう考えていた。 「ラーメン!」  デートとして選ぶにはあまりに庶民的であり、もしこれが男女の関係からなるパパ活であるならばラーメン屋という場所は絶対に選ばない。これは二人が男性同士だからこそ気軽に選べる場所でもあった。  数ヶ月経った今でも佳嘉とは健全な付き合いを繰り返しており、食事以外の進展はなかった。それでも毎回佳嘉は二万円のお手当てを真生に手渡していた。 「またラーメン? 栄養偏りすぎだろ」  真冬ならともかく、夏の訪れが見えはじめた時期に食べるラーメンは選択として最適解とは言えない。しかしラーメン屋やカレー屋、ファミリーレストランなど真生が選ぶのは大抵そういった場所が多かった。 「いーじゃん、ぼくラーメン好きだし」  奢られる身ではあったが、何を食べたいかは真生に選択を委ねられていた。もちろんシュラスコを食べたいといえば、それに見合う店を佳嘉が調べてくれることもあったが、少し小洒落た店よりは庶民的な店のほうが真生にとってはずっと気軽だった。  選択肢こそ委ねられているが、佳嘉が他のものを食べたいといえばそれに従わない義理もない。選ばせておいて文句を言うなと言わんばかりに真生は掴んだ佳嘉の腕を左右に大きく振る。 「それに、佳嘉さんと食べるラーメンは特別だしさ」  季節が夏だろうが冬だろうが、誰と食べたのかということが真生にとっては重要だった。ここまで言われて堕ちない男はいないだろうと真生は確信を持っていた。  一方の佳嘉は眼鏡を上げるついでに、視線を斜め上に向ける。身長差があるため、顔を背けられてしまえば、どんな表情をしているかは真生から確認をすることは出来なくなる。 「私も好き、だけど」  佳嘉の小さな声だけが真生の耳へと届いた。

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