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【事件記録XXXX-3】
記録日時:██年██月██日
関係者:
田中(仮名) - ███株式会社 ██支社 チーフマネージャー(当時)
河野(対象者A) - ██年██月██日時点で入院中
河野(対象者B) - ██年██月██日より勤務(詳細不明)
[記録:██年██月██日]
対象者Bの登場と、職場内の反応
██年██月██日、河野(以下、対象者A)が自殺未遂を図ったとの報告を受けた直後、別の河野(以下、対象者B)が通常通りの勤務を開始した。
対象者Bは、外見・声紋・行動パターンのすべてが対象者Aと一致していた。
しかし、業務遂行能力には著しい向上が見られた。
[同僚の証言]
「██(河野)が急に優秀になった。あんなに使えなかったのに、今ではチームの中心になりつつある」
「最初は驚いたよ。でも仕事ができるならそれでいい」
「前の██(河野)は報告書すらまともに書けなかったのに、今は完璧だ。何があったんだ?」
「今の██(河野)なら、正直一緒に仕事をしてもストレスがない」
「……けど、ちょっと怖いよな。前の██(河野)とは何かが違う」
職場内では、対象者Bの能力向上を歓迎する声が多く上がった。
一部の社員は変化の異様さを指摘していたが、違和感はいつの間にか自然と流されていった。
違和感を明確に認識し、強い警戒を抱いたのは、田中のみであった。
[記録:██年██月██日]
田中の疑念:記憶の齟齬と態度の変化
田中は対象者Bが「以前の河野とは異なる存在」であることを確信していた。
その理由として、以下の点が挙げられる。
① 記憶の齟齬
対象者A:基本的な業務も満足にこなせず、田中の指導がなければ報告書一つまともに作成できなかった。
対象者B:以前の河野が苦戦していた業務を完璧に処理し、田中が過去に指示した内容を当然のように理解していた。
② 態度の変化
対象者A:田中へ過剰に依存し、感情的な行動が目立っていた。
対象者B:落ち着いた態度を保ち、田中への接触頻度は減少。しかし視線や言葉の端々に異様な執着が滲んでいた。
[田中の証言]
「確かに仕事ができるのは助かる。だけどあれは██(河野)くんじゃない」
「表面的には同じでも、何かが違う」
[記録:██年██月██日]
対象者Bの異常な接触
██年██月██日、対象者Bは田中を会議室へと強引に連れ込んだ。
これは過去に対象者Aも行っていた行為であるが、対象者Bの接触方法は対象者Aとは明確に異なっていた。
[監視カメラ記録:██年██月██日 14時37分]
[映像開始]
田中がオフィス内を歩いている。
対象者Bが田中の背後から接近し、唐突に肩を抱く。
田中が軽く肩を竦め振りほどこうとするが、対象者Bは逆に力を強める。
対象者Bが田中の耳元で何かを囁く。
田中は表情を険しくするが、抵抗を見せない。
対象者Bが田中の腰に手を回し、そのまま会議室へと誘導。
会議室のドアが閉じられ、施錠される。
[映像終了]
[記録:██年██月██日 14時41分]
田中に対する対象者Bの身体接触
[音声記録:██年██月██日 14時41分]
田中:「……こんなところで何の話があるんだ」
対象者B:「決まってるでしょう? 俺は██(田中)さんにもっと近付きたいんです」
田中:「……やめろっ」
(重量物が床にぶつかる音)
対象者B:「嫌がらないでくださいよ。俺のこと嫌いじゃないでしょ?」
(布擦れ音、近接する足音)
(何かを掴む音)
(くぐもった声。言葉としては判別不能)
田中:「……っ、や……」
(布擦れの音。小さな軋み)
(短い水音が繰り返される。詳細不明)
(断続的な水音。意味を成さない声の断片)
対象者B:「ほら……押し返せますか?」
(くぐもった声。はっきりとは聞き取れず)
(粘性のある水音)
(短い沈黙の後、唾液を飲み込むような小さな音)
対象者B:「もっと、聞かせてください██(田中)さんの声」
[音声記録、終了]
[記録:██年██月██日 14時45分]
対象者Bの〝記憶の暴露〟
対象者Bは田中に対し、田中以外の者が知るはずのない過去の出来事について言及。
田中が以前、地方勤務時に関係を持ったとされる「山本(仮名)」という社員の存在について、対象者Bが詳細を把握していた。
田中はこの件を職場の誰にも話したことがなく、対象者Aとも共有していなかった。
[音声記録:██年██月██日 14時45分]
対象者B:「……██(山本)さんにも、こうやって口の中、ぐちゃぐちゃにされて気持ちよくなったんですか?」
対象者B:「██(山本)さんですよ。██支社の。もちろん覚えてるでしょう?」
田中:「っ……っ、や……」
対象者B:「それとも……██(山本)さんには、されたことなかった?」
(沈黙。衣擦れの音)
対象者B:「ああ、口の中まで弄られるの、初めてなんですね」
(浅い呼吸)
対象者B:「俺は██(田中)さんの中まで、全部が欲しい……」
(短い沈黙)
対象者B:「ねえ、思い出しました? 口の中を掻き回されて、██(山本)さんとのこと」
田中:「誰が、そのこと……」
対象者B:「俺は、██(田中)さんのことなら全部知りたいんです」
(椅子が動く音。後退する足音)
(小さな笑い声。ゆっくりとした足音、接近)
対象者B:「……呼吸が荒いですね。██(山本)さんとのこと思い出してエッチな気分になっちゃいました?」
田中:「……ッ、違う!」
(短い息遣い。沈黙)
対象者B:「俺なら、絶対に██(田中)さんを捨てたりしないのに」
田中:「それ以上近寄るなっ」
(沈黙)
(再開する足音)
田中: 「……やめッ」
対象者B:「俺は█(田中)さんを捨てないよ。愛してますから」
対象者B:「だから、█(田中)さんも俺を愛してくれますよね?」
(椅子が倒れる音。足音が乱れる)
[記録中断]
[記録:██年██月██日 14時50分]
田中の拒絶と、対象者Bの〝勝利〟
田中が対象者Bを突き飛ばし、息を荒げる。
対象者Bは軽く笑い、肩を竦めながら田中を見つめる。
田中が乱れた衣服を整え、扉に向かおうとする。
対象者Bが後ろから田中の手を取り、指を絡めようとするが田中は振り払う。
田中がドアを開けて会議室を出る。
対象者Bはその後も数秒間、微動だにせずその場に立ち尽くしていた。
田中の背中を見送りながら、低く呟くように「……愛してるよ、█(田中)」と田中のファーストネームを呼び捨てる発言していたことが、外部の監視カメラの音声記録に残されている。
[記録:██年██月██日]
職場内での対象者Bの評価の変化
対象者Bの業務能力向上により、職場では彼を高く評価する声が多く上がるようになった。
[同僚の証言]
「今の██(河野)がいるなら、仕事がスムーズに回る」
「前はあんなに足を引っ張ってたのに、どうしたんだろうな?」
一方で、対象者Bに対しては以下のような言い知れぬ違和感を覚える者もいた。
「何か、██(河野)が変なんだよな……前より良くなったのに、言葉にできない気持ち悪さがある」
「目が合うとゾッとする時がある。……いや、仕事ができる分にはいいんだけど」
「██(河野)がちょっとしたミスをした時、みんなが珍しいなって笑ってた。でもアイツの顔全然笑ってなかったんだよ」
田中は対象者Bに対する異質さを正しく認識していたが、それを他者と共有することはできなかった。
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