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紙切れ

 それから10日ほど経った。  2人……特にヴェルトは、より熱心にミキの捜索に乗り出していた。  モンスターの捜索で最も手っ取り早いのは冒険者に尋ねるという方法なのだが……探しているのが夢魔である為、妙な詮索をされてしまうかもしれない。  その結果、カイラが夢魔の呪いをかけられている事が知れ渡り、奇怪な目で見られるかもしれない。  ……いや、見られるだけなら良い。  下衆な考えを持ってカイラに近付く者が現れるかもしれない。  カイラが悲しむような事をヴェルトは避けたいと考えた。  その為、モンスター討伐依頼で夢魔の名前が挙がっていないか探したり、新聞記事で夢魔の出現情報が出ていないかを確認したり……と、効果の薄い捜索方法しか取れていない状態だった。 (……最近、ヴェルトさんの様子がおかしい)  ギルドにある酒場のひと席に腰掛けブドウジュースを飲んでいるカイラの頭に、ヴェルトの優しげな笑みが浮かぶ。 (お手洗いに行く頻度がなんか高くなった気がするし、1人で出かける事も多くなった。討伐と射精させてもらう時以外、なんだか避けられている気がする)  もしかすると、自分は何か彼の気に障るような事をしてしまったのかもしれない……  そう考えるだけで心が締め付けられる。 「カイラ君」  物思いに耽っていたカイラは突然ヴェルトに声をかけられビクッと震えた。 「どうしたの?」  妙に驚くカイラを見下ろし、ヴェルトは不思議そうな表情を浮かべる。 「ごめんなさい、ちょっと考え事してて」  「ふーん」と素っ気なく返した後、ヴェルトは話を続ける。 「そういえば、また人喰いグモの討伐依頼を受けたよ。アイツの捜索も必要だけど、生活の為には討伐依頼も受けなきゃね」 「えぇ、そうですね」  カイラは急いでブドウジュースを飲み干し立ち上がる。    ***  2人は難なく10体もの人喰いグモを討伐した。  草原に転がる黒い亡骸が、今起こった戦いがどのようなものであったかを想像させる。  一刀両断された体。  粉々に砕け散った冷たい体。  辺りに香ばしい臭いが立ち込めている。 「……よし、そろそろ帰ろうか。また捜索を始めなきゃね」  とヴェルトは剣を収めて足早に帰路を辿る。 「っ、はい」  カイラは急いで杖を背負って彼の後を追った。  その時だった。ヴェルトの服のポケットから紙切れが落ちたのが見えたのだ。  落とした本人は気付いていないようで、スタスタと早足で歩いている。  カイラは紙切れを拾い、ヴェルトに呼びかけようとしたところで……その紙切れが目に入り、ピタッと動きを止めた。  その紙切れには、見覚えのある紋章が描かれていたのだ。  実に忌々しい紋章が…… 「ん、どうしたのカイラ君」  カイラは咄嗟に紙切れを手の中に押し込めた。 「いえ、なんでもありません! 帰りましょう、ヴェルトさん」

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