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宣言

 今回ややセンシティブ要素少なめですがよろしくお願いします!    ***  カイラとヴェルトが泊まっているホテルにて。 「ヴェルトさん、お願いがあるんですが!」 「……なに、急に改まって」  あまりにカイラが真剣な表情を浮かべているので、ヴェルトは身構える。 「僕と手合わせをお願いします!」 「……はぁ?」  カイラの意図が分からずヴェルトは訊き返す。 「僕、魔導士としてもっと強くなりたいんです。その為に1度練習相手になってほしいんです」 「待ってカイラ君。僕魔導士じゃないんだけど」 「むしろ魔導士じゃない方が良いんです。魔法学校で何度か試合の経験があるんですけれど、剣を使う人とは無くて……お願いできませんか?」  とカイラは自覚があるのか無いのか分からないが、上目遣いでヴェルトの顔をじっと見つめ始めた。 (うわぁ……この子典型的な人たらしだ)  その可愛らしさにハートを射止められた気分。 「分かったよ、そこまで言うなら少しだけ付き合ってあげる」 「ありがとうございます!」  カイラはペコリと頭を下げた。    ***  ここはレザー郊外の草原。 「広いし、障害物も無い。打ってつけの場所だよ」  と腰に双剣を提げているヴェルトは、カイラから離れた場所で体を伸ばした。 「本当は木刀なんかが良いんだけど、無いから真剣を使うよ。もちろん怪我なんかさせないから安心してね……だけど、カイラ君は僕に怪我させるつもりでおいで」 「怪我……ですか?」  既に杖を両手に構えているカイラは不安気に訊ね返した。 「心配してくれてるのかい? 大丈夫だって。僕らみたいな剣士にとっては、傷はそれだけ戦ってきたという証なんだから。まぁ、カイラ君相手に怪我するなんて思ってないけど」  さりげなく侮辱されたカイラは頬を膨らます。その様子を見てヴェルトは少しだけ口角を上げた。 「カイラ君が一発でも魔法を当てられたら勝ちね」 「はい!」  とカイラは良い返事をして杖を更に握り締める。 (よし、絶対当ててやる!)  気概十分。カイラの魔法はヴェルトに通じるのか。  ヴェルトは抜刀し、「じゃいくねー」と弛緩した声で合図した後……地面を蹴りカイラに向かい弾丸の如く駆ける。  ヴェルトと共に戦う事が多かった為、彼の敏速(びんそく)さも十分に目に焼き付いているはずなのだが……カイラは思わず息を呑んだ。  そして杖の先をヴェルトに向け詠唱する。 「『ソード』!」  カイラの周りに3本の光の剣が現れ浮遊し、ヴェルトに向かって飛翔する。  真剣と変わらぬ鋭さを持つその魔法が当たればただでは済まない。  光の軌跡をまっすぐに描きながらヴェルトの目の前へ。  ヴェルトはそれを最小限の動きで(かわ)しつつカイラの前まで辿り着く。  そしてヴェルトは日光を浴びギラギラと輝く剣をカイラに振り下ろしたのだ。  カイラは反射として「ヒッ」と鋭い悲鳴を上げ一瞬だけ目を瞑ってしまった。  目と鼻の先に真剣の切先。半歩でも前に進めば失明してしまうだろう。  リーチをしっかり把握していなければ出来ない芸当だ。 「ソード、だったっけ? 魔法の選び方は良いんじゃないかな? あの魔法、当たったら物凄く痛いやつだろ?」  カイラは戦慄し、下がりながらぺたんと地面に座り込んだ。 「あれ、やり過ぎちゃった?」  とヴェルトは剣を鞘へ納め、カイラと視線を合わせるようしゃがみ肩に手を置く。 「体震えてんじゃん。ごめんね? カイラ君」  と謝罪の言葉を述べているものの、ヴェルトの目は未だにカイラを試しているように光っている。 「あっ、いえ……ありがとう、ございました」  顔を青ざめさせたカイラは、これ以上何をする気も起きずただ座り込んでいた。

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