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和解
ハルキオンからの依頼を受けた後。
見つからないと錯乱されても困るので大人しくカイラがギルドに戻った為、ヴェルトと無事に合流し2人でホテルに戻ったのだった。
そして今、ヴェルトがダーティとの話をかい摘んで報告し終わったところだ。
「なんだ、ラブって夢魔の事だったんですね」
「良かった~」とカイラは胸を撫で下ろす。
「ねぇカイラ君。ラブの事何だと思ってたの」
ヴェルトの問いにカイラはやや目を伏せ「そんなのどうでも良いじゃないですか」と早口で答えた。
「それとヴェルトさん」
「うん?」
「ヴェルトさんとダーティさんがその……シてるところを僕が見るって言う話って____」
「そんなの真に受けちゃ駄目だってば」
とヴェルトは不安げなカイラを抱き締めおでこにキスを落とす。
「僕はカイラ君だけ。ね?」
軽い調子だが、この言葉が嘘だとは微塵も思えず、カイラは安心しきってヴェルトの背に手を回す。
「良かったです」
互いに抱き締めていると、カイラが「あっ」と声を上げヴェルトを見上げた。
「そういえばヴェルトさんがダーティさんと話している間にル……ハルキオンさんと会ったんです」
他の男の名を聞いた途端にヴェルトの表情に陰が差す。
「……なんでアイツがギルドにいるんだよ。よりによって僕が居ない時に」
「それで話を聞く為に、ハルキオンさんとカフェに行ったんです」
「つ、付いてったの!?」
目を丸くするヴェルトに、カイラはハルキオンとの会話を伝えた。
ハルキオンの別宅の事。
悪霊討伐の事。
報酬の事。
「……やっぱり分からないよ。なんでその程度の話でカイラ君をカフェの……しかも個室に呼ぶのさ」
下心があるからだと決め付けたヴェルトは、ハルキオンに対する警戒心を強めた。
「それは、ハルキオンさんが死刑執行人だからだそうです」
カイラは更に続ける。
「ギルド含め、レザーのほとんどのお店が死刑執行人であるハルキオンさんの出入りを禁じているようでして。そのカフェだけはハルキオンさんの出入りを許してるようなんですが、個室でないと難しいと言われてるみたいです」
その理由を想像したヴェルトは妙に納得してしまった。
公に認められているとはいえ、どのような凶悪な死刑囚よりも両手が血まみれな人間と同じ空間に居たいなどという酔狂な人間がいる訳がない。
……だからといって最愛のカイラを連れ出した事に納得はしていないのだが。
「カイラ君、何か嫌な事とかされてない?」
「えぇ何も。ケーキをご馳走になって話を聞いただけです」
「……本当? 庇おうとか思わなくて良いんだよ?」
「本当に大丈夫ですって」
(意外と心配性だな)と思いつつ、カイラは真っ直ぐと答えた。
カイラの様子からどうやら本当のようだと確信し、ヴェルトは安堵の溜息を吐いたのだ。
だが……このままでは気が済まないヴェルトは、カイラをひょいと抱き上げてベッドに降ろした。
「ヴ……ヴェルトさん、何を……?」
「マーキング」
「マーキング!?」
ヴェルトはカイラに覆い被さり、首筋にキスをする。
「あっ……あの? ヴェルトさん? ちょっと痛いんですが」
皮膚が吸われる感覚を覚えたカイラは困惑するが、ヴェルトにしっかりと捕まえられてしまっている為身動きが取れない。
少ししてカイラはようやくヴェルトから解放され、「鏡を見ておいで」とだけ言われた。
「鏡ですか……?」
カイラはすぐにベッドから起き上がり洗面台へ消え……すぐに戻ってきた。
「ヴェルトさん、これって」
とカイラは自身の首……もっと言えば、首筋の赤くなった部分を指差す。
「キスマークってやつだよ」
とヴェルトは平然として答えた。
「よりによってこんな分かりやすい場所に……」
「分かりやすい場所だから良いんじゃない。これでハルなんちゃら も寄りつかないだろうしね」
ヴェルトの独占欲の強さを思い知りどう隠そうか思案しているカイラの後ろ姿を見て、ヴェルトはにやにやと笑っていた。
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