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躾のなっていないネコ

 今回、最序盤からダーティが受けになるシーンが流れます。  また、3話目「路上ライブ」では、直接的ではありませんがハルキオンによる拷問のシーンが挿入されています。ご注意ください  (まだ予定の段階ですが)次回はガゼリオメインの話を書く予定なので、今回は「一方ガゼリオは…」の話を省いています。    ***  ダーティとディックが泊まっているホテルの一室で、2人の男がまぐわっていた。  1人は若い男娼。そしてもう1人は演奏家ダーティだ。 「んん……♡」  組み敷かれたダーティは恍惚の笑みを浮かべながら白いシーツを両手で握り締める。  地声より高めな……目を瞑れば女性の善がり声だと錯覚しそうな声だ。  美しい曲線を描くダーティの背を見下ろしながら、男娼は客を悦ばせるべく腰を動かし続けている。  まさか……今をときめく演奏家がこれほどの淫乱だったとは。  整えられていたくすんだ金の髪が乱れ、ふわりと揺れる。 「あっ、イ……ッ♡」  痙攣する肉壺に男娼は手応えを感じ、更に悦ばせるべく弱点を突いてやる。 「はぁ……っ♡ はぁ……♡」 (女みたいだ……あぁ、こんな美人抱いて金貰えるなんて今日はラッキーだなぁ) 「ダーティさん締め付け凄い……本当にご無沙汰だったんです?」  男娼が問いかけた途端、布をかけられ机に置かれた鳥篭からガタガタッ! という金属が軋む音が鳴り2人の耳を刺した。 「気にするな、ただの鳥だ……あっ、そこ……っ♡」    ***  夢のひとときが終わった後、少しだけ話をして男娼を見送ったバスローブ姿のダーティは、乱れた金髪を掻き上げた。 「ラブ。出てきていいぞ」  そう呼びかけると鳥籠の扉が軋みながら開き、中から可愛らしい顔立ちのコウモリが現れた。  つぶらな瞳で辺りを見回し、耳をヒクヒク動かしている。  鳥籠から飛び出すのと同時に寝巻き姿の大男に変貌する。主人に鳥籠へ押し込められていた夢魔ディックである。 「ダーティ……アンタ、わざと声出してたろ」  ワックスを付けていない頭を掻きながら忌々しげにディックは呟いた。 「流石にお前は気付いたか」 「わざとらしいんだよ。それにアンタの精気を殆ど感じなかった」 「だがあの若者を騙せるくらいにはそれらしかったろう」  ダーティは仏頂面のディックの大きな体を両手で包み込むよう手を回す。 「……おかしいな。てっきり興奮してると思ったんだが」 「隣で好きな奴が抱かれてるのに興奮するのはアンタだけだ」  ディックはダーティを軽々と抱き上げ口付けを落とすと、そのまま共にベッドへ倒れ込む。 「おい、傷が開くぞ?」  組み敷かれながらもダーティは余裕たっぷりな表情を浮かべている。 「さっきの男娼の精気で治った」  夢魔の治癒力は人間を凌駕する。  実際、ダーティのマウントを取りながら寝巻きを自ら脱いだディックの背には傷跡ひとつ残っていない。  しかし夢魔が体の傷を癒すには精気の力が必要で、ダーティはディックの為に男娼を買っていたのだ。  ディックに両耳を手のひらで塞がれながら舌を絡ませ合うと、水音が演奏のように連なり、淫蕩な音楽が直接脳内で再生される。  ノラの夢魔だった頃の勘を忘れてはいないらしい。ディックの舌技(ぜつぎ)に翻弄され、流石のダーティも小さく唸った。 「はぁ……おいラブ行儀が悪いぞ。私はまだシャワーすら浴びてないんだ」 「うるせえ。確かにアンタから精気は貰い続けたが……俺ァあれからずっとアンタに触ってもらえてねえんだ」  無意識のうちにディックは己の欲望を溜め込んだ袋を主人の腹に押し付ける。終わりの無い禁欲を強いられた夢魔の本能を疼かせる。  「もう我慢できねえ」と双眸(そうぼう)をギラギラと輝かせながらダーティのバスローブを乱暴にはだけさせる。  現れたのは傷ひとつない玉のような肌。ほどよく引き締まった完璧とも言える肉体。  かつて男に見向きもしなかったディックは……ダーティの裸体を前にしてウサギを目前にした狼の気分になる。  「クソッ」と吐き捨てディックはダーティを強く抱き締めた。 「アンタが別の誰かを抱くのは構わねえ。だがアンタが誰かに抱かれるのは気に食わねえ」 「妙な奴だ」  鍛え抜かれた背筋に指を這わせながらダーティは目を細めて微笑んだ。 「アンタにゃずっと支配者であって欲しいんだ。……アンタがケツ振って男に媚びるとこなんざ見たくねえ」  ディックはダーティが常に首から提げている小さな鍵に触れる。これがディックを捕らえる小さな檻を開ける鍵。  完全に油断しているこの男から鍵を奪うのは容易い。  もし鍵が手に入れば、すぐに(いましめ)を解きこの男を犯せる。  彼の腹に注がれた若人の精を喰らい尽くすほど煮えたぎった白濁を、この獲物の腹が妊婦のように膨らむほど注いでやれる。  眉根に深い皺を刻んだ後、ディックはダーティの鍵から手を離し体勢を変える。  これまで多くの男を泣かせた主人の肉茎を摘んで持ち上げると、ディックは迷わず口に含んだ。 「……ッ」  雄を悦ばせる為の舌使いにダーティは唸り腕で目を庇うようなポーズを取る。 「全く……躾のなっていないネコだ」 「飼い主はアンタだろ。アンタが責任持って躾けてくれよ」  とだけ言い再び自身の欲望を刺激し始めたディックに、「全くその通りだ」とダーティは口角を上げた。  ダーティの肉茎はすぐに槍へと変貌する。そのフェロモンに当てられて、ディックは彼の容姿から想像できぬほどとろけた表情を浮かべた。  殆ど前戯せぬまま行為に及ぼうとする無粋なインキュバスに苦笑しながら、ダーティは彼の思い通りにさせてやる事にした。  ディックは仰向けに寝転がるダーティに跨った。程よく丸みを帯びた尻を降ろして屹立を飲み込む。 「はぁ……っ♡ ダーティの……ダーティの……っ!!」  剣と(さや)。鍵と鍵穴。それらと同等の関係であるダーティとディックの欲望同士が再会を喜ぶ。 「地獄の火クラブで散々他の男のナニを飲み込んだ癖によく言う。そんなに私のが恋しいか?」 「ん」 「まだ挿れただけなのに随分と気持ち良さそうだな? ……自分の指で慰めるだけでは足りなかったか」 「……ん♡」 「ハッ! ……可愛い奴。良いだろうラブ、お前の思い通りに動くんだ」  お許しを出されたディックは喜んで腰を振り始める。ダーティとの生活ですっかり身に染み付いた、雌としての腰使い。  筋肉の塊が踊り淫蕩な音楽を奏でながら情けなく喘ぎ続ける。  ……なんとも哀しい生き物だ。 「あ゛っ♡♡ イぐ、イぐイぐイ……ッ♡♡♡」  接合部を中心として多幸感の円形波が起こり、ディックの体を包み込む。  声にならぬ声を上げながら、ダーティにも同じ感覚を味わせようとディックは更に激しく舞い始める。  特に雁首を締め付けるように意識しながら、彼の好きな角度と速さでピストンを繰り返す。  すぐに搾り取られそうだと、ダーティはディックの顔をゆっくりと見上げた。  『ラブは私にとって……かけがえのない恋人で、親友で、戦友で、女神なんだよ』とヴェルトに答える程には想っている彼が、自分の上で淫れている。  山の頂上から望む日の出にも勝る絶景に、ダーティは艶やかな唇を緩ませた。  一瞬の気の緩み。それが仇となり、ダーティは呻きながら早々に精を吐き出してしまう。  自身の中で彼の肉茎が萎んでゆくのを感じ、ディックは名残惜しそうに腰を浮かし彼から離れた。 「……やはりお前が1番だな」  溢してしまった本音を聞き逃さなかったディックが、ダーティの隣に倒れながら彼の頬に手を触れる。 「本当か?」 「オモチャとしてな」  咄嗟に繕った言葉にディックは満足気に鼻を鳴らし、ダーティを包み込むよう抱き締めた。 「オモチャ呼ばわりされて喜ぶのはお前ぐらいだな……さて、このままお前で遊びたい気分だが、私は仕事に行かなくてはならない」 「俺も付いて行く」 「駄目だ、まだ寝ていろ」  ダーティは緩んだディックの腕から抜け出す。まるで出勤前の主人を引き留めるペットを宥めるように、ディックの張りのある髪を撫でベッドから立ち上がる。  バスローブがハラリと床に落ちた。今日歌う予定の歌を口ずさみ、ダーティは軽くシャワーを浴びてから服を着る。  歌う場所に合わせる為に今日は燕尾服ではなく、シンプルなシャツとスラックス、コートを合わせている。  ディックの身なりをやったダーティは、革張りのギターケースを手に微笑んだ。 「じゃあ、お前はそこで良い子にしてるんだぞ?」 「あの……ダーティ?」  焦りの混じった声でディックは主人に呼びかける。 「うん?」  ダーティはディックをながら話を聞く姿勢を示す。 「できるだけ……早く帰って来てくれ」 「歌った後カフェで食事するつもりだ。カリカリに焼いたベーコンと瑞々しいレタスを挟んだサンドウィッチにコーヒーを1杯」 「あっ、あの……っ」 「それから買い物へ行く。チョコバーを買いに行かなければ」 「ダーティ……!」  もぞもぞと動き抵抗するネコに分からせる為に、ダーティは手にスッポリ収まるサイズの機械を握り締めスイッチを回す。 「ん゛っ♡♡」  途端に何故かディックは甘い声を漏らし悶えるが……悲しいかな、ディックは手足を自由に動かせる状況にない。  裸に剥かれた上に、拘束ベルトというマットレスの下にベルトを通す事で簡易的に拘束できるという物で四肢を捕らえられているのだ。  ディックの力ならばベルトなど簡単に引き千切れそうだが、魔法がかけられておりそう簡単には破れないようになっている。  しかも……後孔には男性器を忠実に再現したディルドが仕込まれている。  これはとある魔導技師が創り出した魔道具の一種で、スイッチ1つでバイブレーションのオンオフだけでなく強弱も付けられる逸品。 「腰の辺りにバスタオル敷いてやったから、思う存分精も潮も吐き出してしまえ。……良い声で鳴けよ?」  とだけ言い残し、無情にもダーティは仕事へ向かってしまった。

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